次々に新しい料理や食材などが登場するとあって、『食のトレンド』は刻一刻と移り変わっていく。しかし、クライアントや職場の同僚と「あれ食べた?」という話になることはよくある。そんなときに「……聞いたこともない」というのは、かなりマズい。この連載では、ビジネスマンが知っておけば一目おかれる『グルメの新常識』を毎回紹介していく。第13回は、日本で増加中の「ダイバーシティ化するグルメ」。
「ダイバーシティ化するグルメ」って何?
観光やビジネスなど、日本を訪れる外国人の数は近年増加の一途を辿っている。世界各国からさまざまな国籍・人種の人々が足を運んでいるが、中には「肉や魚は食べられない」など、食事の内容に制限がある人も少なくない。その理由は、宗教の戒律、動物愛護や環境保護といった個人の思想、自身の健康のためなどさまざまだ。
よく耳にするのは「ベジタリアン」「ヴィーガン」「ハラル」など。「グルテンフリー」や「糖質制限」「コーシャ」などもある。また完璧なベジタリアンではなく、たまには肉や魚を食べる「フレキシタリアン」なども海外には存在する。主要なものをチェックしてみよう。
・ベジタリアン
肉食を避け、野菜や穀物を主に食べる。乳製品も食べる「ラクト・ベジタリアン」や、乳製品と卵も食べる「ラクト・オボ・ベジタリアン」がある。欧米のベジタリアンは「ラクト・オボ・ベジタリアン」が大半だといわれている。
・ヴィーガン
ベジタリアンの一種だが、肉・魚はもちろん乳製品や卵など動物性食材を一切食べない。別名「完全菜食」あるいは「ピュア・ベジタリアン」ともいわれる。
・ハラル(ハラール)
イスラム法において、合法なもの・許されているものを指す。飲食物で全面的に禁止されているのは豚肉とアルコール。豚肉から抽出されたエキスや豚骨からだしを取ったものなど、原料に使われている場合もすべてNGとなる。
・コーシャ
ユダヤ教で定める食の規定。自然の産物である魚(限られた種類)、特殊な屠殺のみによる牛肉、羊、鳥肉などや野菜、果物。加工される物に関してはその製造過程で混ざり物、身体に安全でないものなどが入らないように、厳しく管理されて加工されたもの。海外にはコーシャ認証の食品がたくさんある。
・グルテンフリー
グルテン(小麦)を使用したものを食べない。ダイエットの意味合いが強く、ハリウッドセレブの間で流行したのが発端になっている。パン・パスタなど小麦粉を使用している料理は、米粉やそば粉などを代用することも。
・糖質制限
甘いお菓子や白米など、血糖値を上昇させる糖分を含むものを食べない。体づくりが必要なアスリートや、ダイエットの一環として取り入れる人が多く、肉やチーズなどが主な食事となることが多い。
さまざまな食文化・食習慣に対応するため、食の多様性を意識したメニューを提供する店が増えている。特に具材やトッピングなどの組み合わせを自由に選べる飲食店は、食事に制限がある人もない人も自分に合ったメニューが食べられると好評で、「カスタマイズの店」も急増している。
「ダイバーシティ化するグルメ」はどこで食べられる?
昨年、アメリカから日本へ初上陸を果たした「クロニックタコス」(東京の銀座や新宿、大阪・なんば)は、ファストフードとカジュアルレストランを掛け合わせた「ファストカジュアル」をコンセプトにしたタコス専門店。アメリカにおいてタコスは非常にポピュラーで、現地の味を求めてか、多くの外国人が足を運ぶという。具材を選べるから、組み合わせ次第でベジタリアンやヴィーガンでも食事を楽しめるのが特徴だ。
ベースはタコス、ブリトー、サラダ、チップスの4種類。野菜、メイン食材、トッピング、ソースなどの他、タコスの生地は小麦粉かコーンから選択可能。グルテンフリーの人はコーン生地を選ぶことができる。メニューの組み合わせの数は1万通り以上にも及ぶ。メイン食材には肉や魚介類があるが、ベジタリアン対応で「メイン食材なし(野菜だけ)」を選ぶことも可能。その場合、通常100円で追加可能なワカモレ(アボカドディップ)が無料になるという嬉しいサービスも。
渋谷にあるピザ専門店「CITYSHOP PIZZA」では、生地、チーズ、メイン3種、トッピング2種を自分好みに選べる「カスタムピッツア」(1,600円~)を提供。メインは肉や魚を使ったものもあれば、野菜やハーブのみの組み合わせもあり、さまざまな食の嗜好に対応している。ヴィーガンの場合は、チーズを選ぶところでモッツァレラではなく、100%植物由来の「発酵豆腐チーズ」を選べばよい。
同店で特にこだわっているのが3種類のクラスト(生地)。石臼挽き全粒粉と北海道産の小麦粉をブレンドし、北海道産真昆布と日高昆布の粉末を配合し旨味を出した「シグネチャーコンブクラスト」、天然ミネラルを豊富に含む竹炭を練り込んだ「ブラックバンブークラスト」など、旨味や食感はもちろんヘルシーさも意識している。大豆粉を使用した「ソイクラスト」は、焙煎した大豆粉を使用した低糖質、低カロリーな生地で、グルテンフリーとなっている。
「ダイバーシティ化するグルメ」を食べてみた
さて、「クロニックタコス」のメニューを実食してみよう。まずは定番のタコスから。生地はソフトタイプか、カリッとしたクリスピータイプから選べる。今回はソフトタイプの中からグルテンフリーのコーンを選んでみた。メインは国産の鶏肉を特製のタレで漬けて焼いた「ポロアサド」、ソースは青唐辛子で辛さを出した「グリーンサルサ」をそれぞれ選択。オニオンやパクチーなどの野菜は、苦手なものを伝えれば抜いてくれる。
くるっと巻いて完成したタコスをひと口。香ばしい焼き目のついたコーン生地は、思ったよりあっさりした風味と軽い食感で、どんな具材やソースにも合いそうだ。ポロアサドはゴロっとした食感で食べごたえがあり、グリーンサルサのやや強めの辛みとも相性抜群。野菜もたっぷりで食べやすく、あっという間に完食してしまった。小麦よりもコーン生地の方が軽いような気がする。
続いて、人気メニューのブリトーも食べてみる。こちらは小麦を使った「フラワートルティーヤ」に包む具材を選んでいく。メイン食材を入れない「ベジタリアン」を選び、代わりにサルサの中から「ワカモレ」(無料)をチョイス。その他、ブリトーではライスか豆も入れることができるので、うずら豆を唐辛子やハーブと煮込んだ「ピントビーンズ」を選んでみた。
完成したブリトーを持ってみると、手に伝わってくるずっしりとした重さにびっくり! ひと口食べてみると、濃厚なアボカドとクリーミーなピントビーンズの食感が絶妙に交じり合い、非常にまとまりのいい味になっている。キャベツやレタスのシャキシャキした食感もよく合い、トルティーヤは噛むほどに小麦の甘みを感じる。肉や魚などを入れていないベジタリアン対応メニューに挑戦してみたが、ヘルシーなのに食べごたえ十分、味もボリュームも文句なしのおいしさだった。
2020年の東京オリンピック・パラリンピック開催に向けて、ますます日本を訪問する外国人が増えることが予想される。海外のゲストと「ちょっと食事でも」となったときに困らないよう、ダイバーシティ化した飲食店をリストアップしてみてはいかがだろうか。
※価格はすべて税別