私たちは外界からの情報の約80%を目から入手している

「最近、新聞の文字が見えにくくなったなあ……。若い頃は視力が良かったのに……」。そう感じることはありませんか? 人間は、外界からの情報の約80%を目から入手しているため、比較的早くから老化を自覚しやすい特徴があります。

人間の目の働きは、カメラ(デジタルカメラというより、アナログカメラに近い)に例えられます。視覚はレンズの働きをする水晶体を通し、ネガである網膜に映写され、視神経を通して脳に情報が届き、画像として認識します。「対象を捕らえ、焦点を合わせて撮影し、現像する」という動きを一瞬かつ無意識のうちに行っている超高性能カメラと言えるでしょう。

それだけ複雑な構造で視覚機能をつかさどっているのですから、「目の老化」と一口に言っても、老化しているのはレンズなのか、ネガなのか、それとも神経や脳なのか……。原因は多岐にわたって考えられ、起きる病気もさまざまです。

今回は「目のアンチエイジング」というテーマのもと、身近に起きる目の病気についてご説明をしていきましょう。

ものが見える仕組み

そもそも水晶(英語名: クオーツ)は、二酸化ケイ素が結晶化した鉱物・石英の中でも無色透明な物を指します。水晶(水晶発振子)の効果を技術活用しているのが、時計(クオーツ)です。紫色に色づいた紫水晶(アメシスト)の神秘的な美しさに惹かれる女性も多いですね。

人間の目の中の水晶体は、成人で直径約9mm、厚さ約4mmです。形は円盤状で、色は「水晶」を冠しているだけあって無色透明、神経も血管も通わずに「房水」という液体に栄養補給を頼っています。

私たちが近くを見る際はこの水晶体が厚く、遠くを見るときは薄く形を変えることで、焦点を合わせています。毛様体筋(もうようたいきん)という水晶体に付いている筋肉が縮まったり(水晶体が厚くなる)、伸びたり(水晶体が薄くなる)するという仕組みを持っています。「肘を曲げると力こぶができ、伸ばすと力こぶが無くなる」といったイメージです。

老眼は眼精疲労や肩こりにつながる

身近な目の病気として老視(老眼)や白内障が有名ですが、これらの言葉を聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。

新聞や本を読む距離(約25~30cm)が見えにくくなるという老眼は、高齢者に起こるイメージを持たれている方もいるかもしれません。ただ、実際には40歳頃から老眼は始まっています。

水晶体が硬くなり弾力性が低下すると、今までと同じようには焦点が合わなくなるため、物を離して見るようになります。加齢により、目のピント調節力が低下するのが老眼です。

ところで、「近視の人は老眼になりにくい」という言われがありますが、はたして本当でしょうか? 近視の人は焦点距離が短いので「老眼の進行に気づきにくい」というだけで、実際に老眼になりにくいわけではありません。

老眼になると暗い場所でものが見えにくくなり、小さな文字も読みづらくなるため、無意識のうちに目を凝らし続けるようになってしまいます。その結果、眼精疲労や肩こり、頭痛といった症状を招く原因にもなってしまいます。

もしも生活に支障が出るようだったら、老眼鏡を使うことをお勧めします。現代使われている老眼鏡は、もともと14世紀頃のヨーロッパの教会から広まりました。室町時代後期に宣教師を通じて日本に伝わった南蛮文化の一つで、高齢の戦国大名にも愛用されていたようです。なお、老眼鏡を早めに使ったからといって老眼の進行が早まるわけではないのでご心配なく。

白内障になると「擦りガラス越しの視界」になる!

一方、老眼と並んでメジャーな目の病気・白内障ですが、日本眼科学会では「白内障は早い人では40歳代から、80歳代では大部分の方に発見される」と報告されています。

白内障は水晶体が濁る病気で、「ものがかすむ」「ものが2重・3重に見える」「明るい場所でまぶしく感じる」「視力の低下」といった症状が出現します。初期では水晶体の端の方が濁るだけで、自覚症状が無く、たまたま検査を受けて発見されるケースが多いです。進行して濁りが中心部におよぶと、擦りガラス越しに物を見ているようになります。

老化して濁った水晶体を「人工水晶体(眼内レンズ)」と取り替える手術も一般的に行われています。歯を抜くときのような「局所麻酔」で、手術時間も短く、安全性も高い治療方法だと言えますが、手術を受ける際には眼科医とよく相談することが大切です。

目は、自分自身で老化を自覚しやすい臓器です。今回は「目のアンチエイジング」として一般によく知られている老眼と白内障を中心にご説明をしました。近年は網膜の老化である加齢黄斑変性症や緑内障が問題になってきています。普段はものを見る行為をあまり意識しない人が多いですが、人間が生きていくうえで非常に大切です。

「物が見えにくい」「普段と違う」と感じたら、眼科を受診し検査を受けることをお勧めします。

※写真と本文は関係ありません

筆者プロフィール: 倉田大輔(くらた だいすけ)

日本抗加齢医学会 専門医、日本旅行医学会 認定医、日本温泉気候物理学会 温泉療法医。

日本大学医学部卒業後に、形成外科・救急医療などを研鑚。2007年に若返り医療や海外渡航医療を行う池袋さくらクリニックを開設。「お肌やアンチエイジング」や「歴史と健康」などの講演やメディア出演。海上保安庁が行う海の安全推進活動への執筆協力や「医学や健康・美容の視点」から地域資源を紹介する『人生に効く”美・食・宿”』を執筆。東京商工会議所 青年部 理事。