厚生労働省が平成29年に発表した「我が国の人口動態」によれば、日本人の死亡原因の第1位はガン(悪性腫瘍: 28.7%)でした。ただ、第2位は心臓病(心疾患: 15.2%)で、1つ飛んで第4位は脳卒中(脳血管疾患: 8.7%)でした。心臓病、脳卒中という「血管の老化」が関わる病気が日本人の健康を脅かしているのです。
「A man is as old as his arteries(ヒトは血管とともに老いる)」という有名な言葉が、1898年に内科医のウィリアム・オスラーによって記されました。「血管の老化が人間の老化に関わる」――。現代でも通じる概念が、100年前以上も昔から知られていたことに驚きを隠せません。
血管の総全長は10万km
そもそも、血管とは何なのでしょうか。血管とアンチエイジングの関係性を紐解く前に、血管という存在自体をきちんと理解しておきましょう。
血管は血液を運ぶ管で、その総全長は10万kmにもなります。地球から月までの距離である約38万kmにはおよびませんが、地球を2周半もできるぐらいの長さを持つのが血管です。
血管には、心臓から血液を全身に運びだす動脈と運んだ血液を回収する静脈があります。心臓から出る血液量は毎分約5~6リットルですが、運動時には5倍程度も増加します。
動脈は、血液を送り出す働きから弾力性に富んだ構造をしています。静脈は動脈よりも太いですが、弾力性が低いという特徴があります。動脈よりも体の表面近くにあり、血液を貯める働きや体内の熱を放熱する作用があります。
「血管が無い」ないしは「血管が細い」などと医療機関で言われた経験がある方もいるでしょう。もちろん、本当に血管がなければ生きていくことができません。正確には「血管が見えやすい or 見えにくい」と言うべきでしょう。
体の表面にあって青っぽく見える静脈は、目で確認しやすいので採血や注射などで使われます。一方、体の奥にある動脈は直接見られませんが、手首や首などの脈拍(拍動)として触れることができます。
血管の老化はどう起きるか
ところで、冒頭で触れた日本人の主要な死因を引き起こす「血管の老化」とは、どのような仕組みで起きるのでしょうか。実は血管の老化は複雑なのですが、血管の一番内側で血液に接している「血管内皮細胞」の老化についてご説明します。
「血中コレステロール」という言葉を聞いたことがある人も多いでしょうが、私たちの血液中にはコレステロールが存在します。このコレステロールは血管内皮細胞のすき間にもぐり込むと、血管の壁にくっつくという特性を持っています。そして血液中のコレステロールが多くなるにつれて付着する量も増え、次第に血管の壁はもろくなります。
このような状況に陥ると、体の不要物や異物を食べる免疫細胞「マクロファージ」が登場します。マクロファージは血管の壁にくっついているコレステロールを「異物」として認識し、取り除くために血管の壁に侵入してコレステロールを食べ始めます。
ところが、食べ過ぎで太ったマクロファージは、血管の壁から出られなくなります。そこでSOS信号の様に「サイトカイン」という物質を放出し、さらに血管の壁を傷つけます。私たちの体は血管の傷口を治すべく、血を固める働きを持つ血小板に働くよう指示を出します。
ただ、血小板によって傷ついた血管を塞ぐと、血栓と呼ばれる血の塊が生まれてしまいます。血栓はワインコルクの様に血の流れをブロックしてしまうため、栄養が行きわたらない血栓から先の細胞は死んでしまいます。この血栓が心臓に飛んで行くと心筋梗塞、脳に飛んで行くと脳梗塞が発症するという仕組みです。
こうやって説明すると、マクロファージやサイトカイン、そして血小板はそれぞれ悪者に思えてしまいます。ですが、いずれも体を守る役目を持ち、欠かせない存在なのです。彼らは彼ら自身の仕事をしていても、結果的に人間の体に悪影響を及ぼしてしまうのが問題なのです。
動脈硬化は静かに私たちの命を脅かす
動脈の老化である動脈硬化は、高血圧や心筋梗塞、脳梗塞、大動脈瘤などの原因になり、中年以降に検査などで問題となることが多いです。実際には20~30歳頃から動脈硬化が始まり、50~60歳頃に血管が狭くなり、症状や病気として表面化します。動脈硬化は20~30年という長い期間を「静か」に「無症状のまま」、私たちの体を脅かしているのです。
もちろん、そのリスクから身を守る方法はあります。具体的には、生活習慣病の予防が血管の老化防止(アンチエイジング)につながります。人間ドックや健康診断で「血管年齢」を計測する検査などを受けてみることもよいでしょう。
動脈の老化である動脈硬化はわかりづらい一方で、静脈の老化はわかりやすいという特徴を持っています。「静脈の老化」として挙げられるのは、静脈が伸びて曲がって数珠の様に膨れる「静脈瘤」があります。ふくらはぎなどの足にできやすく、下肢静脈瘤と呼ばれています。
足は心臓から遠い位置にあり、血液が心臓に戻るには重力に逆らう必要があります。ただ、心臓という「ポンプ」からの圧力で血液を行きわたらせる動脈のような仕組みが、静脈にはありません。
その代わり、静脈の周りの筋肉が収縮して心臓に血液を戻す仕組みを持ち、さらに逆流防止装置である静脈弁が存在します。この静脈周りの筋肉や静脈弁が疲れたり、壊れたりした結果、静脈瘤が発生します。女性や立ち仕事が多い方などに発症しやすい病気です。
下肢静脈瘤は、皮膚がボコボコするなど自分自身でわかる方もいますが、放置しても改善されるわけではありません。手術をする治療だけでなく、手術をしない治療などもありますので、気になる方は外科などを受診するのもいいでしょう。
検査や受診を大切に
「人は血管から老いる」という言葉が表すように、「血管とアンチエイジング」のつながりは非常に深いです。動脈、静脈など血管の種類に関わらず、私たちの健康や生活を脅かす病気の原因にもなりうるため、検査や医療機関の受診などを大切にしたいですね。
次回は「目とアンチエイジング」について書きたいと思います。
※写真と本文は関係ありません
筆者プロフィール: 倉田大輔(くらた だいすけ)
日本抗加齢医学会 専門医、日本旅行医学会 認定医、日本温泉気候物理学会 温泉療法医。
日本大学医学部卒業後に、形成外科・救急医療などを研鑚。2007年に若返り医療や海外渡航医療を行う池袋さくらクリニックを開設。「お肌やアンチエイジング」や「歴史と健康」などの講演やメディア出演。海上保安庁が行う海の安全推進活動への執筆協力や「医学や健康・美容の視点」から地域資源を紹介する『人生に効く”美・食・宿”』を執筆。東京商工会議所 青年部 理事。