正式名称である「クラウドコンピューティング」がIT業界に登場したのは、Googleの元CEOであるEric Schmidt氏が2006年に用いたのが初めてと言われている。だが、その概念自体は目新しいものではない。
そもそもクラウドコンピューティングは、コンピューター資源をネット経由で利用する概念である。古くはメインフレームによる基幹業務処理、コンピューターやネットワークシステムの運用施設であるデータセンサー、1990年代初期にはアプリケーションをネットワーク経由で提供するASP(アプリケーションサービスプロバイダー)も存在した。そこから進化し、クラウドの技術構成に数えられるSaaS(Software as a Service: サース)も、1990年代末期にSalesforce.comが提供を始めた顧客関係管理ソリューション「Salesforce CRM」が元祖と言われている。つまり、Schmidt氏が提唱したクラウドコンピューティングというキーワードは、変化するITソリューションに名前を付けたに過ぎないのだ。
クラウドコンピューティングは、ハードウェアやソフトウェアなど各種リソースをネットワーク経由で提供するため、そのネット全体を指して「雲」と称するものの、見方を変えるといくつかの分野に細分化される。一般的な種類としては「パブリッククラウド」「プライベートクラウド」「ハイブリッドクラウド」の3つ。
まずパブリッククラウドは文字どおり一般向けサービスとして、クラウドリソースを部分的に貸与し、プライベートクラウドはファイアウォールなどで囲った部分を契約した企業だけが使う仕組み。ちょうど社内にサーバーを設置するオンプレミスクラウドのネット版を思い描くと分かりやすい。そして、オンプレミスとプライベート、もしくはパブリッククラウドを組み合わせたのが、ハイブリッドクラウドである。
他方で技術面からクラウドコンピューティングを分類すると、前述のSaaSを含むPaaS/IaaSという側面も大きい。PaaS(Platform as a Service: パース)はアプリケーションを実行するためのプラットフォームであり、IaaS(Infrastracture as a Service: イアース、アイアースなど)は仮想マシンやネットワークなどのインフラをクラウドから提供するサービスとなる。
つまるところ"クラウド"とはコンピューターの利用形態における1つのキーワードであり、その内容自体に違いはない。アナログ計算機からビルの1室を占めるメインフレームが誕生し、個人向けとなったパーソナルコンピューターから、手のひらに収まるスマートフォンとデバイスが進化しても、その目的は演算である。そのためクラウドは単なるバズワード、もしくはマーケティングキーワードという批判が付きまとうのだ。
いずれにせよ重要なのはクラウドという単語や形態ではない。クラウド利用者へ価値を提供するソリューションである。
阿久津良和(Cactus)