「Internet of Things(モノのインターネット)」が世に現れたのは、昨今のように言われているが、概念自体は1991年のユビキタスコンピューティングなど、以前から類似する論文が点在した。だが、明確にIoTというキーワードが登場したのは1999年。2009年6月のRFID Journalに掲載された記事によれば、Kevin Ashton氏自身が「1999年にP&Gで発表したプレゼンテーションのタイトルとして『Internet of Things』を使ったのが始まり」と述べている。
Ashton氏は1990年代後半のP&G Assistant Brand Manager時代に、サプライチェーンの管理にRFID(Radio Frequency IDentifier)を利用しようと、マサチューセッツ工科大学(MIT)と共同でRFIDやセンサーの標準化を推進する「Auto-ID Center」を始動した(現在同センターは企業から資金提供を受けて「Auto-ID Labs」に改称)。ID情報を埋め込んだタグと近距離無線通信を行うRFIDから、IoTという発想に至るのは、概念が確立した現在から見れば容易である。だが、1990年代当時を思い出せば、その発想がIT技術に裏付けされた正しい概念だったことを理解できるだろう。
IoTは現実世界にあるさまざまな「モノ」がインターネットに接続し、センサーから取得した情報をクラウドに吸い上げて、その分析結果を元に指示や行動など相互運用を行う仕組みを指す。IDC Japanが2017年2月に発表した予測値によれば、2016年の国内IoT市場の見込み値は5兆270億円。年17%成長し、2021年には11兆237億円に達すると見込んでいる。既にビジネスの現場ではIoTを活用した事例も増え、製造業の現場をデジタル化する「Industry 4.0」など枚挙に暇がない。
周りを見渡せば、家庭内ならIoT化した家電をインターネット経由で操作し、畜産分野では出荷頭数の予測やセンサーデータを利用して設備の自動化を行っている。昨今のスマートスピーカーも、前述の定義に照らし合わせれば立派なIoTデバイスだ。このように我々の生活やビジネスに浸透し、既に商材化したIoTだが、IT企業はその先に目を向けている。MicrosoftはIoTが普遍化する時代を踏まえて「インテリジェントクラウド、インテリジェントエッジ」構想を2017年6月に発表。クラウドのAIとエッジ(クラウドに対する端に位置する)が連携することで、エッジデバイスもインテリジェントの存在になると同社は説明する。
コンピューターがオフィスに導入され、1人1台の時代へ進んでいったように、IoTデバイスが身の回りに溢れていくのは火を見るよりも明らかだ。経営層はこの流れを活かし、ビジネスプロセスのデジタル化や新たなビジネスの創造に目を向けるべきである。
阿久津良和(Cactus)