人前で話すのは得意ではないし、プレゼンするのは気が重いという方が多いのではないでしょうか。しかし、仕事のレベルが高まり、役割の幅が広がってくると、お客様への提案、社内の会議での説明、様々な説明会でのスピーカーなど、多くの人の前で話をする機会は社内外問わず増えてきます。そして、そこでのプレゼンの成否が皆さんの仕事の成果、そして周囲からの評価を左右するようになります。
一方、中には自分は話すのが得意だ、プレゼンには自信があるという方もいます。見栄えのよいスライドを作り、自信を持って堂々と縦板に水のごとくしゃべる。プレゼンが苦手な方から見ると、自分もあのように話せればいいのにと感じることも多いでしょう。
しかし、プレゼンが苦手な方も、そうでない方も、実は大きな思い違いをしている点があります。
例えば、プレゼン終了後のこのようなコメントを考えてみましょう。
「今日のプレゼンは完璧。言いたいことは全部言えた。15分の持ち時間に収めるために何度も資料を作り直したかいがあった。何度もしゃべる練習をしたおかげで、途中でつっかえることもなかった。上司からも『よいプレゼンだった』と言われ、お客様からも帰り際に『しゃべり、うまいですね』と褒められた」
さて、これは本当に「良いプレゼン」なのでしょうか?
プレゼンの成否は聴き手の行動で決まる
実は「うまく見えるプレゼン」と「良いプレゼン」は違うのです。プレゼンが「良い」か「悪い」かは、資料の出来やしゃべり方のうまさなどではなく、「そのプレゼンで実現したかった状態が達成できたか」。具体的には、「聴き手は自分が狙った判断や行動をとってくれたか」によって決まります。
例えば、もし自社のミスで取引先の顧客に迷惑をかけ、その対応策を説明するとき、凝った資料を使って堂々としたプレゼンをしたら聴き手はどう感じるでしょうか。おそらく「資料を作る時間があったら、この状態を何とかしろ!」「こいつら本当に悪いと思っているのか?」などと反感を持たれてしまうでしょう。このプレゼンで実現したいことは、聴き手であるお客様が当社を再度信頼してくれること、そして当面の対応について納得してもらい、その実行に協力してもらうことでしょう。それがこのプレゼンのゴールであり、そこに向けて全ての力を振り向けていくことが必要です。
プレゼンをする上で、資料の作り方や話し方などはとても重要です。しかし、それはプレゼンの目的ではありません。プレゼンは「聴き手を動かす」という目的に対する手段なのです。このことを忘れずに、日々自身が行ったプレゼンや説明について、「それで聴き手は納得して動いてくれたのか_」をまず確認することを意識しましょう。そして、うまく行かなかったのであれば、どこがまずかったのかを振り返る。うまく行ったのであれば、何が効果的だったのかを押さえていく習慣が重要です。これを地道に続けることで、あなたのプレゼン力は確実に上達します。「プレゼンの成否は、聴き手の行動で決まる」。このことを深く心に刻んでおきましょう。
<著者プロフィール>
吉田素文
グロービス経営大学院教員。立教大学教育学修士、ロンドンビジネススクールSEP修了。大手私鉄会社を経てグロービスに参画。論理思考、プレゼンテーション、ファシリテーション等の思考・コミュニケーション系科目の開発を行うほか、経営戦略、アカウンティング、組織運営など幅広い領域での講師、企業の経営課題を扱うアクションラーニングセッションのファシリテーターを多数務め、課題解決、プレゼンテーションの指導を多数行っている。