プレゼンの成否は「聴き手が、自分が狙った判断・行動をとってくれたか」によって決まります。このため、同じ資料を用いて同じように話をしても、聴き手によって成功する場合もあれば、失敗することもあります。そこで大事になるのが、プレゼンをいかに「相手に合わせたものにする」かです。
聴き手を知る、聴き手について深く考える
「当社の製品の一番の特徴は耐久性が高いことです。これだけの耐久性が出せるのは当社独自の技術があるからです。その技術は長年の研究開発によって生み出された生産技術の高さによるもので、そこに当社は…」
例えば、聴き手が、その製品自体についてほとんど知らず、使ったこともないお客様だとしたら、こうしたプレゼンは適切と言えるでしょうか。耐久性が優れていることが、そうした製品においてどれくらい重要なことなのかがわからなければ、若しくはそのお客様が実は耐久性よりも価格など別の特徴を重視している場合、こうした説明はあまり意味がありません。聴き手はなぜこちらがこの話を長々としているのか理解できないでしょう。逆に、こうした製品について熟知している技術者が聴き手で、今使っている製品の耐久性に不満を抱いているのであれば、この説明こそが相手に響きます。このように、言うべき内容、言い方をいかに相手に合わせることができるかが重要なのです。
聴き手と心の中で「対話」する
しかし、ぼんやりと「聴き手が知りたいことは何だろう?」と考えても答えは出ません。プレゼンの機会が与えられたら、「聴き手は誰で、自分は聴き手にどうなってほしいのか」「聴き手は何を知っていて、何を知らないのか」「聴き手が最も関心があることは何か」の3つを自分に問いかけてみましょう。
当たり前のように思えるかもしれませんが、こうした点が押さえられていない、聴き手不在のプレゼンが世の中には極めて多いのです。プレゼンの準備、そして実際に話をする際も、これらの問いを何度も自分に問いかけ、もしわからない点やはっきりしない点があれば、聴き手についてよく知っている人に聴くなどして、聴き手の情報を集める努力にまず時間をかけましょう。資料をつくるのはその後で良いのです。
情報が十分に得られない場合、「自分が聴き手の立場だったら」とイメージして考えてみましょう。ふだんどのようなことをやっているのか。何を知っていて、何に関心があり、どんな願望や懸念を持っているのか。などをイメージしてみることで、いろいろなことが見えてくるはずです。一旦自分の「言いたいこと」から離れ、聴き手の立場に立ち、聴き手と「対話」しながら準備を進める。プレゼン成功のかなりの部分はここにかかっていると言っても過言ではありません。
<著者プロフィール>
吉田素文
グロービス経営大学院教員。立教大学教育学修士、ロンドンビジネススクールSEP修了。大手私鉄会社を経てグロービスに参画。論理思考、プレゼンテーション、ファシリテーション等の思考・コミュニケーション系科目の開発を行うほか、経営戦略、アカウンティング、組織運営など幅広い領域での講師、企業の経営課題を扱うアクションラーニングセッションのファシリテーターを多数務め、課題解決、プレゼンテーションの指導を多数行っている。