2015年から相続税の基礎控除額が改正され、大幅に引き下げられました。これによってより多くの人が相続税の課税対象となり、その節税対策として「生前贈与」が注目されるようになりました。そもそも生前贈与とは何なのか、どのように行えばよいのか、知っておきたい生前贈与の知識と賢い節税方法をお伝えしていきます。
不動産の評価方法
これまでに「住宅取得等資金」や「生命保険」という形での生前贈与(以下、贈与と称します)があるとご紹介してきました。今回は不動産を活用した贈与についてご説明していきます。
贈与税を計算する際は、贈与によって取得した土地や家屋を評価する必要があります。財産の評価額が低ければ税金も少なくてすむため、財産の評価を下げて、将来評価が上がる可能性のある不動産などの財産を生前贈与しておくことは、節税対策に効果的なのです。財産にもいろいろありますが、贈与税を計算するため、まず財産の評価額を出します。
土地の評価は路線価方式というもので計算されます。路線価は、土地取引の指標となる公示価格の約80%の価格となるように計算されます。現金はそのまま額面通りで評価されるので、現金で不動産を購入した方が財産評価を低くすることができます。
また、更地を持っている場合、例えばその上に賃貸アパートを建てることで「貸家建付地」となり、土地の評価額は更地のままの評価額と比較すると、約20%下げることができます。アパートの評価額も、実際の建築費の30~40%程度で評価されます。こうすることで、評価額をさらに目減りさせることができます。
相続時精算課税制度を活かした不動産贈与
20歳以上の子や孫に対し、2,500万円まで非課税で贈与できる制度として、相続時精算課税制度があります。相続時精算課税を使って贈与した場合、将来価値が上がりそうな財産を贈与するのがポイントです。
この制度の適用を受けた贈与財産は、相続発生時にはすべて相続財産に加算されてしまうため、相続税の軽減効果をあまり望むことはできません。しかし、加算される贈与財産の価格は、「贈与時の時価」とされているため、将来に向けて値上がりが予想される財産であれば、評価の低いうちに財産を贈与することによって相続税の軽減対策になる場合があります。
将来価値の上がる財産は、有価証券であれば未公開株など上場していない株式などが思い浮かぶと思います。不動産では、再開発エリアや新線、新駅ができるエリア、市街化調整区域から市街化区域へ変更となる再開発エリアなどが代表的です。
例えば、2,500万円の宅地を親から子に贈与したとしましょう。その10年後に親が亡くなり、相続が発生しました。相続人は子1人とします。その時点で親の財産は3,000万円の現金のみでした。
相続時精算課税を利用すると、相続税の計算は、贈与時の不動産の価格2,500万円と相続時財産である現金3,000万円が合算され、5,500万円が課税対象になります。細やかな計算は省きますが、5,500万円の課税価格に対する相続税額は約235万円です。
ここでもし、10年前にもらった宅地が、親が亡くなった当時の3倍の7,500万円になっていたとしたらどうでしょう。結果的に親からももらった財産は、7,500万円(宅地)+3,000万円=1億500万円だったことになります。
1億500万円を相続したのに、相続税法上では5,500万円として評価されて、235万円の相続税の支払いだけで済んだので、生前贈与でかなりの税金が軽減できたことになります。
贈与税の「配偶者控除の特例」とは
遺された配偶者がそのあとも安心して暮らしていけるように、配偶者限定の特例措置があります。それが「贈与税の配偶者控除」という大きな特例です。夫婦の間で居住用の不動産を贈与したとき、最大2,000万円まで贈与税がかからないとういう制度です。
配偶者控除の適用を受けるには、下記の要件を満たす必要があります。
・贈与時までの婚姻期間が20年以上
・自分が住むための居住用不動産、または居住用不動産を取得するための資金であること
・贈与を受けた年の翌年3月15日までに贈与で取得した居住用不動産に居住し、引き続き居住する見込みがあること
・同じ配偶者から一生に一度限りであること
通常、生前贈与は、3年以内に贈与した財産は相続発生時に相続税として加算され、課税対象になりますが、この制度は対象外になります。そのため、複数の財産がある場合などは、生前贈与することで、財産の総額を圧縮でき相続税の軽減につながります。
ただし、気をつけなければならないのは、「夫婦どちらが先に亡くなるかわからない」ということです。妻へ自宅を贈与したのに、先に妻が亡くなり、自宅が夫のもとに戻ってきて相続税が発生する可能性もあるからです。
不動産の活用を検討する場合
不動産は節税対策に活用できる一方で、現金や上場株式など、すぐ現金化できる財産に比べて、相続人の間での遺産分割が難しくなり、相続トラブルにつながる可能性もあります。不動産の活用を検討する場合は、相続専門の税理士などにまずは相談しましょう。