2015年から相続税の基礎控除額が改正され、大幅に引き下げられました。これによってより多くの人が相続税の課税対象となり、その節税対策として「生前贈与」が注目されるようになりました。そもそも生前贈与とは何なのか、どのように行えばよいのか、知っておきたい生前贈与の知識と賢い節税方法をお伝えしていきます。

暦年贈与の税率は?

生前贈与とは生きている間に人に財産を渡すことを言います。そして贈与をすれば贈与税が課税されます。贈与税は税率がとても高いことで知られていますが、仕組みや制度を活用すれば、非課税の範囲内で贈与をすることが可能です。

贈与税には課税方法が2種類あり、どちらを使用するのかは、贈与される側(もらう人)が自分で選ぶことができます。贈与税はどのように課税されるのか、見ていきましょう。

生前贈与(以下、贈与と称します)は、贈与税が課税されます。贈与財産には、現金、不動産、株式、保険金などがあたり、複数の人から贈与された場合もひとまとめにされて贈与税が課税されます。

また、贈与税は1暦年(1月1日~12月31日)中に贈与された財産の合計額にかかる贈与税をまとめて納付するので、「暦年贈与」と呼ばれています。暦年贈与の課税方法は、贈与された人(もらった人)あたり基礎控除110万円まで非課税にすることができます。

暦年課税の計算方法は以下のとおりです。

贈与された財産価格‐110万円=基礎控除後の課税価格
基礎控除後の課税価格×税率‐控除額=税額

基礎控除後の課税価格が3,000万円超なら税率は55%なので、半分以上は税金で取られることになります。ただし基礎控除内の110万円以内の贈与であれば、税金はかかりません。贈与税を非課税で贈与したいのであれば、110万円までに収まるようにしておくような注意が必要です。

なお直系尊属と呼ばれる20歳以上の子、孫への贈与の場合(特例贈与)には贈与税の一般税率よりも低い税率になります。

贈与税の税率(特例税率)

  • 贈与税の税率(特例税率)

    贈与税の税率(特例税率)

例えば、贈与税500万円に対する贈与税額は、一般税率20%では53万円ですが、特例税率(15%)では48万円5,000円です。贈与額が1,000万円なら、一般税率(40%)では231万円、特例税率(30%)では177万円で、贈与税が少しだけ安くなります。

基礎控除後の課税価格が高ければ高いほど税率が高くなり、一般贈与のほうが税額負担が大きくなることがわかると思います。

相続時精算課税制度とは? メリットとデメリット

贈与税は暦年贈与が原則ですが、相続時精算課税制度を選択することもできます。この制度は、以下の必要要件を満たせば使える課税制度になります。なお、年齢は贈与年の1月1日で判定されます。

・贈与される人は20歳以上の子ども、孫
・贈与する人は60歳以上の祖父母、父母

相続時精算課税は、2,500万円までの非課税枠があります。

(贈与財産の合計額‐最高2,500万円)×20%(一律)

贈与した人一人あたり2,500万円を超える財産に20%の税率がかかりますが、2,500万円の上限までは、複数年にわたり何度でも贈与することができます。

相続時精算課税は、生前贈与時には2,500万円まで非課税となり、その後相続発生時には遺された財産とそれまでの贈与額を合算し相続税を計算するルールになっています。しかし、同じ財産に対して二重で課税されるため、すでに支払った贈与税があれば、相続税からその贈与税額分を差し引く仕組みになります。

例えば、生きているうちに相続時精算課税制度を使い、1,000万円を子に非課税で贈与し、10年後に相続が発生したとしましょう。このとき遺された資産が3,000万円ならば、10年前に贈与した1,000万円を合算して、遺産総額4,000万円として相続税の計算をすることになるわけです。仮に子2人が相続人ならば、相続税の基礎控除は3,000万円+600万円×2人=4,200万円となります。遺産総額4,000万円は全額が基礎控除内ということになり、税金がかかりません。

財産総額が合計4,000万円だったら、先にいくら贈与しても、あるいは贈与はしないで亡くなったときにまとめて4,000万円の相続をしたとしても、どちらも税金はかからないという点では同じです。しかし子どもにとっては、少しでも早めに渡されたほうが助かるというものではないでしょうか。

また、相続時精算課税を使って贈与した財産を、相続時に改めて計算し直す際、「贈与時の価格」で評価されます。そのため、土地や株など将来値上がりする可能性のある財産を贈与したほうが、相続税の節税につながります。

しかし相続時精算課税はメリットだけではありません。いったん相続時精算課税を選択したら、取り消すことができないデメリットがあります。それは、相続される人が亡くなるまで継続して適用されるということです。また、適用後は暦年課税の110万円の非課税枠も使えなくなります。つまり、相続時精算課税の2,500万円非課税枠を使い切った後は、たとえ10万円であっても申告の必要があるということです。

贈与税は、相続税とも密接に関係しています。相続時精算課税を選択する際は、まずは自分の場合は相続税が発生するのか、発生する場合どれくらいの金額になりそうなのか、相続時精算課税を選択した場合のメリットなど確認してから選択しましょう。