2015年から相続税の基礎控除額が改正され、大幅に引き下げられました。これによってより多くの人が相続税の課税対象となり、その節税対策として「生前贈与」が注目されるようになりました。そもそも生前贈与とは何なのか、どのように行えばよいのか、知っておきたい生前贈与の知識と賢い節税方法をお伝えしていきます。

  • 賢く無駄ない生前贈与

生前贈与とは?

「贈与」とは、自分の財産を他の人に無償で、かつ無条件で譲り渡すことです。相続は財産が他の人に移るという意味では同じですが、ある人が亡くなったときにその財産を受け継ぐことを言います。生きているうちにあげることを「贈与」、死んだときに自動的に、あるいは故人の意志により引き継がれることを「相続」と言います。

そのため、贈与のことを「生前贈与」と言ったりもしますが、贈与と同じ意味と考えて以下「贈与」と称してお伝えしていきます。

相続税と贈与税の関係

相続を行えば相続税が課税されます。また贈与を行えば贈与税が課税されます。相続税と贈与税は、補完関係にあるとよく言われます。

残された財産が少なければ少ないほど、相続税は少なくてすむ仕組みです。そこで、財産を生前に贈与しておくことで相続財産を減らし、将来発生する相続税を少なくしようと考える人もいます。財産をすべて生前に贈与してしまえば、将来の相続税はかかりません。しかしながら、多額の贈与税が発生してしまいます。

相続税を減らせば贈与税が増え、贈与税を減らせば相続税が増えて、まるで両者は綱引きのような関係にあります。近年、相続・贈与に対する国の方針が変わる中で、税制もたびたび変わる状況が続いています。そのため、そのときどきで自分にとって有効と思われる方法を取捨選択していくことが大切になります。

贈与税の種類と申告・納付

  • 贈与税の種類と申告・納付

    贈与税の種類と課税区分

贈与には大きく分けて「生前贈与」「負担付贈与」「死因贈与」という3つの種類があります。

通常の贈与は、生前贈与で「あげます」「もらいます」という契約のもとで行われます。負担付贈与は、例えば「マンションをあげるかわりに、住宅ローンの返済もしてもらいます」など何らかの負担の付いた贈与です。死因贈与は、「死んだらあげます」「もらいます」という契約で行われる贈与で、相続税が課税されます。

贈与税の申告・納付……財産を贈与された側(もらった人)が行います。贈与財産には現金、不動産(宅地、建物)、株式、生命保険等などが該当します。

申告方法……贈与があった年の翌年の2月1日から3月15日までに、贈与税の申告書を納税地の税務署長に提出します。

納付方法……申告の提出期限までに全額を金銭で納付します。金銭での一括納付が困難な場合、納期限を延長して分割して納付することができますが、最長5年間の期限があります。また、不動産や株式など、贈与により取得した財産を納付する物納はできませんので納税資金を確保しておくことが大切です。

贈与税がかかる財産、かからない財産

贈与税は現金や不動産などの目に見える財産だけではなく、目に見えない財産も課税対象になることがあります。

贈与税は贈与される側(もらう人)が納税する必要があります。生前贈与は、お互いの同意のもとに成り立つものですが、贈与を受けたのと同じ経済的な利益があったとみなされる場合には「みなし贈与財産」として扱われてしまいます。

例えば、贈与する側(あげる人)や贈与される側(もらう人)以外の第三者が保険料を負担している生命保険契約などの場合、支払われた保険金や解約返戻金は贈与財産とみなされ、贈与税が課税されます。あげた人も、もらった人もお互いに意識がなくとも、贈与とみなされてしまうため注意しましょう。

とはいえ、贈与税といっても贈与した財産すべてに税金がかかるわけではありません。ここでは、贈与税のかからない財産もしっかり押さえておきましょう。

【贈与税のかからない財産】

・法人からの贈与財産(贈与税は非課税だが、所得税が課税される)
・夫婦や親子、兄弟姉妹などの扶養義務者から生活費や教育費に充てるためもらった財産(通常範囲と認められるもの)
・香典、ご祝儀、お中元
・公益事業の用に供する財産
・相続開始の年に相続した人から贈与により取得した財産(贈与税ではなく相続税が課税される)

生前贈与は、長い期間かけて行うと効果が高い相続対策と言われます。自分の場合はどういう対策がとれるのか、早くから準備していくためにもしっかりと生前贈与についての知識を身につけておきましょう。