「学童保育」にも保育所と同様に待機児童問題があり、近年働くパパママたちの心配ごととなっています。また、子どもの小学校進学に伴うさまざまな変化によって仕事と子育ての両立が難しくなる「小1の壁」についても、話題に上ることが増えていますよね。
「学童保育のキホン」について、全国学童保育連絡協議会の事務局次長である千葉智生さんと佐藤愛子さんに話を聞くこの連載。5回目となる今回は、学童保育の待機児童問題や「小1の壁」の乗り越え方について教えてもらいます。
学童保育の待機児童問題、その現状とは
――現在、学童保育の待機児童は何人いるのでしょうか?
佐藤:私たちの調査では、今年5月時点で全国に少なくとも1万6,957人の待機児童がいることが分かっています。これは、調査を始めた2009年以降、最も多い結果となっています。
千葉:アンケートをとった全1,741市町村のうち、165の自治体は「把握していない」と回答し、さらに6の自治体は未回答でした。さらに「全児童対策事業」などのほかの事業を受け皿として利用して、待機児童をゼロとしている場合もあるので、実際の数はもっと多いと考えられます。
――「待機児童」と言われると焦りを感じてしまいますね……
佐藤:おっしゃるように、待機児童問題は確かに大きな問題です。ただ、待機児童がいることよりも、もっと大きな問題があると私たちは考えています。
まず、学童保育にはこれまで定員や集団の規模などについての国の基準がなかったために、入所に制限を設けていない施設や自治体もあります。その場合、「待機児童はゼロ」とカウントされますが、人数の多さから過ごしにくい場所となり、質の低下を招きかねません。
千葉:大規模の学童保育では、子どもの声が合わさって大きな騒音になり、子どもたちが快適に過ごせないという問題も実際に出てきています。長期休暇中は8時間以上続くことになるので、それはとても深刻です。また、大人数だと気の合う子だけの小集団になりがちで、子ども同士の関係づくりが難しくなってけんかが増える、さらには指導員の目が行き届かず事故が起きやすくなる。こうした事態を避けようとすると一斉指導に偏りがちになるなどの問題もあります。
佐藤:子どもたちからすると、学童保育に行っても適切な対応をしてもらえなければ、足が遠のいてしまいますよね。待機児童がいない市町村でも、こうした問題は起こり得ます。待機児童がいなければ、学童保育が充実している、指導員が適切に子どもにかかわっている、ということではないのです。
――待機児童の数字だけを見るのではなく、広い視点が必要になりそうですね。
千葉:子どもが負担を感じることなく学童保育に継続的に通い続けられることが、何よりも大切です。待機児童の数を減らすことだけが重要なのではなく、減らすとともに学童保育の質の向上もしていかなければならないのです。
佐藤:子どもが学童保育に入れない場合、仕事を辞めるか辞めないかという選択を迫られるのは親たちですよね。「学童保育の代わりになるか? 」と、すべての子どもを対象とした「全児童対策事業」や「放課後こども教室」を利用する考えもありますが、これらには子どもの「生活と遊びの場」との位置づけはないので、学童保育の代わりにはなりません。その場が本当に子どもたちにとっての居場所になっているかきちんとチェックすることが必要です。
小学1年生は学童保育でどう過ごす?
――小学校に上がると学童保育での生活も始まりますが、小学1年生はどう過ごしていますか?
千葉:4月の間は1年生だけ早く帰ってくることが多いので、学童保育でも1年生だけで過ごせる時間があります。えてして大人は何もしていない姿を見ると心配になることがありますが、そうした時間があることで、子どもたちは少しホッとする時間をとることができます。みんなでダラダラ過ごしたり、「今日はどうだった? 」と何気ない話をしてみたり、そうした時間をとることはとても大切ですよね。
佐藤:小学校に上がってすぐは、今までの生活と大きく変化するため、子どもたちはとても疲れます。予定を詰め込まずに、まずは小学校と学童保育の2つの生活を安定させてあげることが大切です。
――確かに、小学校と学童保育という2つの場所に慣れる必要がありますよね。
千葉:1年生の時期って、好奇心でいっぱいですよね。小学校に上がると、保育所より建物は大きくなるし、子どもたちの人数もいっぱいだし、生活がまったく変わってきます。子どもたちのできることも増えて、その時にしか経験できないこともたくさんあります。学童保育では、その子にとってやりたいことは何か、いっしょに探していくことも多いですよ。
「小1の壁」に対して親ができることとは?
――小学校に進学すると、親の働き方や子どもたちの環境などの変化によって、仕事と子育ての両立が難しくなる「小1の壁」に突き当たる親も多いですよね。学童保育の利用にあたっては、親はどのようなフォローが必要でしょうか?
佐藤:学童保育の利用前に、子どもといっしょに見学しておくといいかもしれません。「今度小学校に入ったら、ここに通うことになるよ」と伝え、少しでも安心させてあげましょう。
千葉:また、生活をゆったりめに組み直すことも大切ですね。これまでしていた習い事を1~2週間お休みするとか、週に1回だったのを隔週にするとか、そうした対応も必要だと思います。
――入学してすぐは、子どもにとっての負担がかなり大きいのですね。
千葉:小学校に上がってしばらくは、親が子どもの表情を見て、子どもの呟きに耳を傾ける余裕を意識的に持つことが大切です。新しい環境に慣れるのが苦手な子は、とくに注意して見てあげてほしい。子どもたちは、まだまだ自分の気持ちを言葉にしてくれるとは限らないので。
佐藤:心配になると、ついつい「今日どうだった? 」とか「何したの? 」と聞いてしまいがちですが、小学1年生ではまだうまく言葉にできない子が多いんですよね。次から次へと生活が展開していくと、前のことは忘れてしまって振り返るのも難しい時期です。ぜひ聴き上手を心がけて、子どもと対話する時間をとってもらいたいですね。
――とくに入学してすぐは、注意して見てあげることが大切そうですね。
佐藤:家に帰ってから、子どもがいつもと違う行動やしぐさ、表情をしているというのは、親は何となく分かりますよね。ふとした時に暗い顔をしたり、いつもよりかんしゃくを起こしやすかったりするなど、そうした様子が見られたらやはりフォローしてあげることが必要かもしれません。
「小1の壁」は周りと協力して乗り越えよう
――親がフォローする以外に、子どもたちの様子を知る方法はありますか?
千葉:保育所の時と同様、学童保育でもお迎えに行ったら指導員の人に「今日どうでしたか? 」と聞くのがいいと思います。その日の子どもの様子について必ず一言交わすという風にしたら、指導員との関係づくりにもつながりますよね。
佐藤:会話の中で、「家ではこうしている」など、双方向のやり取りもできると、指導員側としても保育がしやすくなるというメリットもあります。
――親だけで抱え込まない方が良さそうですね。
千葉:指導員との会話では、そこから話が広がって、本人では話せないことまで教えてもらえることもあります。どうやって過ごしていたかとか、お友だちとどういうやり取りをしていたかとか、子どもの様子が分かることもあります。
佐藤:学童保育ではなく、学校生活の方に子どもの心配ごとの原因がある可能性もあるので、担任の先生に相談するのもいいかもしれません。指導員と学校の担任の先生、そして保護者の3者で子どもたちを支えることが大切です。
学童保育に入って親がどのようにフォローしていけばいいのか、理解することができました。親だけではなく、子どもの周りにいる大人たちが協力して支えてあげることが重要ですね。次回は、学童保育卒業のタイミングについて、引き続きお話を聞きます。
プロフィール
千葉智生
全国学童保育連絡協議会事務局次長1983年から自治体職員として、公立公営の学童保育の指導員を32年勤める。市町村・都道府県の連絡協議会で、学童保育をよりよくするための活動を行ってきた。2015年から現職。
佐藤愛子
全国学童保育連絡協議会事務局次長自身の娘が通った学童保育で、指導員から子どもたちの話を聞くごとに、働きながらの子育てを支えられていることを実感。2004年から全国学童保育連絡協議会職員となり、2014年から現職。