3回にわたってお届けしている「輝ける『金』シリーズ」。前回に引き続き、金地金(現物)と金先物取引を扱っている「第一商品株式会社」(ジャスダック銘柄コード:8746)の企画部課長、渡辺誠一さんにお話を伺った。


前編の「金が買われた7つの理由」の4番目にある、公的売却の減少で示されるように、かつては完全に売り方だった中央銀行が、買い方に転じつつあるようだ。「ドルを持っていれば安心」というドル神話は崩れ去り、ドル不安に悩まされる国々が金に頼ろうとし始めているように見える。

――個人だけでなく、国(中央銀行)も金を買っているようですが、だとしたら、今後どういう状況が想定できるのでしょう?

現在、世界中で金の総取り合戦のようになっています。最近「通貨安戦争」という言葉がキーワードになっていますが、この裏には金価格の高騰があります。つまり、通貨が安くなり価値が落ちる代わりに、金が上昇しているということです。金本位制時代、1トロイオンス(約31g)=35ドルだった金の価格は現在1,400ドル台まで上昇しています。ということは金の価値が相対的に上がって通貨の価値が下がっているということです。

1970年以前、各国の中央銀行は、自国通貨の裏付けとして、外貨準備の中に金をかなりの比率で組み入れていました。しかし、時代の流れと共に、中央銀行も資産運用で資産を増やさなくてはいけないようになり、金利を生まない金を売って米国債を買うようになりましたが、欧州の一部の銀行が、あまりにも金を売るようになってしまい、金価格は250ドル台まで下落しました。

これでは自分たちの持っている資産価値が低下してしまうので、1999年に金を売る量を制限しようとして、欧州の15の中央銀行が協定を結んだのが、「第一次ワシントン合意」です。(続いて、第二次、第三次合意がなされている)このようにかつては、中央銀行は完全に売り方でした。しかし、リーマンショック、ドバイショック、ギリシャショックによってドルやユーロ不安に悩まされる国々が、外貨準備における金の公的売却を減らし始め、逆に中国、ロシア、インドなどは保有を急増させてきています。

昨年、IMF(国際通貨基金)が最貧国の救済資金のために、400トンの金の売却をすると発表したときに金は大幅に下がりました。結局、この内の200トンをインドが1,050ドルで買ったので、市場では1,050ドルが底値というコンセンサスが広がりました。中央銀行は長期保有しますし、慎重なので、1,050ドルで買ってくるということは、そこだったらまた買うぞ、そこがテッパンの底だぞという印象を与えることになってしまったのです。

――中国が金投資に動き出したようですが、どういう影響が考えられますか?

中国の動向には特に注目すべきだと思っています。中国は経済成長の中でドルの外貨準備がどんどん増えて2.5兆ドル超になっています。外貨準備の中に占める金の割合を引き上げようとして、08-09年にかけて金を454トン増やしました。現在、中国の外貨準備に占める金の比率は1.5%程度ですが、世界各国の中銀の外貨準備に占める金の割合は、約10%と言われていますので、もしそのレベルまで引き上げる場合、金価格上昇に一役買うかもしれません。現在の保有量約1,054トンを将来的に1万トンにまで引き上げるべきという政府高官の発言も出ています。中国が米国債から金にシフトしているのは、ドル安不安のみならず世界的により発言力を高めるという目的もあるようです。ロシアもまた08年から年間約100トンずつ金の保有量を増やしています。

現在、金は市場に16万5千トン、オリンピックプール3杯分しかないと言われています。他に採掘すれば何万トンとかあるかもしれませんが、地上にはそれしかありません。中国が金を少し買うと発表したときに金は上昇しました。安いときに買いたいのに、自分が買ったことで自分のクビを締める結果となったのです。だから中国は、今後はそんなに増やすつもりはありませんよ、という一種のポジショントークをしています。

その一方で国内では民間に金を持つような施策を推進しようとしています。元々中国人は金選好が強いのですが、国が規制していたので、自由に持てませんでした。ですが、今年になって、中国最大の商業銀行である中国工商銀行が純金積立を始めると発表しました。

同行の預金口座は2億口座あると言われていまして、仮に、2億口座の顧客が月一人1g純金積立を行うと月200トン、年間2,400トンになります。2,400トンは、新たに掘られて精製される新産金の量に匹敵し、世界の金を全部買い占めてしまうくらいになります。他の大手商業銀行も純金積立に追随する構えのようですし、中国初の、国外の金塊関連商品に投資するための金塊ファンドが立ち上げられる予定です。国が直接動くと角が立つので民間に解放してやっていこうとする、壮大な計画が進められようとしているのです。

(後編に続く)