「為替介入」の意図するところ

ここのところ「円高」に関するメディアの報道が相次いでいる。ジワジワと確実に進んできた円高を毎日見ている者としては、何を今さら騒ぎ立てるのかと怪訝な感じもするが、マスコミが騒ぐ理由はドル円が15年ぶりの83円台をつけたからだ。この15年ぶりの新値で、さらなる円高懸念が強まっており、よって、ひょっとしたら為替介入があるかも? という期待が高まっている。

為替レートの大きな変動は、歴史的に経済や政治に大きな影響を与えてきた。そのため各国の為替市場を管理している通貨当局では、「市場の動向が行き過ぎていないか」、「投機的な動向にさらされていないか」を常に監視している。

為替レートが行き過ぎた動きと判断すれば、実際に為替市場に参入して、相場を一定方向へ誘導したり、過度な変動のスピードを和らげるために、市場とは逆の行動を取る。こういった操作を為替介入(市場介入)と呼ぶ。

たとえば、急激な円高の進行に対して、財務省の指示で日銀が「ドル買い円売り介入」を実施して抑制するということ。為替介入は、国の意思を反映して行われることが多いので、為替市場では無視できない存在になっている。

為替介入の効果とは

輸出振興政策をとっている日本では、1973年の変動相場制への移行以来、頻繁に為替介入が行われてきた。03~04年にかけて、日銀は35兆円にも及ぶドル買い円売り介入を行っている。

03年7月からFXを開始していて、ドル円120.20銭の買いポジションを持っていた私は、このときの為替介入を頼みの綱にしていたが、結局のところ、これほど前代未聞の大規模介入を行いながらも、103円までドル安円高が進んでしまった。このときは、FXでも介入期待でポジションを張る人も多かった。

とはいえ、04年3月16日にドル買い介入を停止された後、確かに3月31日に1ドル=103円台をつけてはいるが、そこからドル円は反転して、5月21日には114円台をつけている。介入をストップした理由は、米国が反対したからだとマーケットでは言われていた。この日以来、6年間、日本の為替介入は行われていない。

このときは、計らずも(いや本当は計っていたのかもしれないが)、介入を止めた途端に、ドル円は反転した。しかし、このときの一連の為替介入が失敗だったとは言い切れない。もし介入を行っていなければ、もっと速いスピードでドル安円高が進展していたかもしれない。急激な為替レートの変化への対策として、円高の進行を鈍化させる目的だったとしたら、それなりの効果はあったのではないか。このときは100円割れはなかったのであるから。

為替市場はあらゆるマーケットの中で、市場規模が最も大きくかつそれほど単純ではない。だから、いくら介入するといっても、そんなに効果があがるはずがないと一般的には考えられている。こういった為替介入があるとそれに立ち向かうようにドル売りを仕掛けるディーラーたちもいて、根本的な市場の流れを止めることはできない場合が多い。基本的に、為替介入は、短期的な効果はあるが、市場全体のトレンドを変えるには至らない場合が多いと解釈すればよいかもしれない。

その後、ドル円は、05年1月に101円台をつけたものの、そこからグッと切り返して、年末に向けて121円台まで円安ドル高の方向にほぼ一直線に行っている。

介入期待よりも本来の相場の方向性を見る

今回15年ぶりのドル円の高値更新で、実際に為替介入は行われるのかどうか、FXをやっていればより一層気になるところだ。まず米国が理解を示してくれるのか。米国は、依然として失業率が高い水準にあり、景気の減速懸念も強まっているので、ドル安方向で行きたいに決っている。

欧州だって、自国の通貨安が輸出産業にプラスである。どこもかしこも、お国の台所状況が厳しい中では、同調してもらうことは難しく、仮に日本単独で為替介入を行っても、その効果のほどは、協調介入よりは少ないだろう。

ただ、マーケットは"サプライズがお好き"だ。過去において、ポジティブ・サプライズが伴った場合の介入は効果を上げているようだ。だから、今回のように、マーケット参加者が介入はやらないと思っていたときに、積極的な介入をすれば、ある程度の効果を上げられるかもしれない。

ただし、介入はいつ入るか分からない、それを期待して、相場を張ってもあまり良い結果を生み出せないように思える。実際に介入が行われてから、マーケットの動きを見定めてポジションを取る方が賢明だろう。

FXは、売りもできるから、円高がどこまで進展しようが、逆に収益チャンスと捉えることができるが、ただ日本国民の一人として、政府と日銀で経済対策に対する円高阻止を最優先課題として取り組んでもらいたいと思っている。

執筆者紹介 : 香澄ケイト氏

主な略歴 : 為替ジャーナリスト
米国カリフォルニア州の大学に留学後、バヌアツ、バーレーン、ロンドンでの仕事を経て、帰国。外資系証券会社で日本株 / アジア株の金融法人向け営業、英国系投資顧問会社でオルタナティブ投資の金融法人向けマーケティングに従事する。退職後、株の世界から一転してFXに関する活動を開始し、為替情報サイト、マネー雑誌などの執筆、ラジオ番組への出演およびセミナー等の講師を努める。著書に『あなたのお金を10倍にする外貨投資術』(フォレスト出版)、『今すぐ始めるFX5人の投資家が明かす勝利のルール』(すばる舎)がある。