2010年の上半期は、年初に想定した以上に波乱があったと思う。でも予期せぬことが起こるのが、マーケットだ。下半期の次の「○○ショック」はなんだろうと、不安に駆られそうにもなるが、自分の予想と逆に行くことも常に念頭に置いておく必要がある。

為替相場の予想を当てることは至難の業だが、「ストップロス」だけは自分の意志で入れることができる、まさかのときの命綱。ストップロスを入れることだけは怠りなくしておきたい。

ドル円はボーリングな通貨?

2010年上半期を終えて、為替相場を振り返ってみると、米景気回復期待がかかりドル高円安方向かと思いきや、欧州財政問題で揺れに揺れてしまい、ドル円は7月1日に年初来安値の86.95をつけている。

ドル円は他通貨ペアと比較するとボーリング(退屈)な通貨ペアのように思えてしまうところがある。その理由はあんまり動かないから。以下の「ドル円の年間値幅の推移」をご参考いただければわかるように、1970年および80年代にはドル円の年間値幅が60円を超えることもあったのだが、2000年以降の年間値幅は、世界金融危機が勃発した08年を除外するとすれば、10円台とかなり縮小し、以前と比較して安定的な相場になっている。

とは言っても、ドル円は年間でそれほど動く通貨でなくても、毎年着実(?)にジワジワと下落している(3年前に120円台であったことがウソのよう。100円も程遠き感だ。)

ドル円の年間値幅の推移

近年ではユーロやオセアニア通貨の方が動きは激しい。特に今年上半期はユーロだった。相場変動(ボラティリテイ)が小さくなれば、収益チャンスも低下する。従ってドル円がボーリングだと思えてしまうロジックになってしまう。

かつてマーケットにおいてドルは中心だったのだが、もうドルが主役でなくなってきているように思える。相変わらずドルが基軸通貨であることに変わりはないが、参加者も多様化してきて(FXの投資家も含む)、皆の興味の対象が新興国通貨や資源国通貨などにも及んで、トレーディングする通貨が多様化してきているからだと思う。

こういったことで、ドルの地位が落ちたというよりも、準および準々主役的通貨がひしめきあっているから、主役のドルが霞んでいるように見えるのだ。

米ドル、利上げ期待が掛かっていたが……

だが、依然として米ドルは基軸通貨ですべての通貨が米ドルと対比して動いている以上、世界の通貨の動きは米国経済の影響を受けるので、米国経済を見る上での経済指標からは目が離せない。特に世界金融危機以来、米雇用統計に対する注目度はいっそう増している。実際に先週の米6月の雇用統計では、事前の憶測で発表前にドルは売られ、冒頭に記したように、ドル円は年初来安値を更新している。

雇用統計は米国政府が発表する、前月の数字が翌月第一金曜日に発表される景気の実体を写す最新の数字である経済指標であることから、どうしてもマーケットに与えるインパクトは大きくなる。

ドル円の動きが多少ボラタイルになったとの印象を受けたのは、昨年11月27日に安値84.73をつけたときのことだ。09年夏あたりから、米国の低金利政策長期化についての憶測が流れていて、ドル円は下落の一途を辿っていた。そこに「ドバイ・ショック」が見舞ったことで、マーケットのリスクは増大したため、ドル円は、14年ぶりに84円台まで下落した。

しかし、急速な円高進行によって介入警戒感も強まる中で、発表された11月の米雇用統計は、予想以上の好結果で、ドル円は約1カ月ぶりとなる90円台を回復し、11月初頭からのドル安円高をほぼ打ち消すかたちになった。

相場の予想が外れたときに備えること

そして昨年末あたりから、米経済指標に改善の兆しが見え始めたため、マーケットでは、今年米国は、量的緩和政策からの脱却へと向かう、つまり利上げを行うのではないかという思惑が台頭してきて、ドル円の上昇予想が強まってきていた。年初に円安を予想する人が多かったのはこういった理由からだ。俄然今までのボーリングな通貨ペアは今年最も注目される通貨ペアに変身しかと思われた。

しかし、今度は「ギリシャ・ショック」だった。6月23日のFOMC(米公開市場委員会)では、景気に対して慎重な態度を示し、景気判断が下方修正されている。そこには、欧州財政危機の影響も懸念されていると思われる。

6月27日のG20(主要20カ国・地域首脳会議)で、財政赤字半減の合意がされ、景気回復重視の姿勢が後退したとしたことも、米国の長期金利急低下の要因になっているようだ。G20閉幕直後の28日には、欧州の信用不安や世界景気の回復が鈍るとの懸念で、資金の安全な投資先として先進国の国債に資金が流れ込んで、米10年物国債は3%の大台を割ってきている。

急速に悪化してきた米国の住宅関連指標が金利低下に及ぼした影響も大きい。米国では、4月末まで政府による住宅購入支援策が実施されていたが、対策が止められたとたんに住宅関連指標悪化の兆候が現れ始めている。

巨額の財政赤字、雇用情勢の悪化では、米国は低金利政策を維持せざるを得ない。米利上げの観測は、年初の期待よりは、かなり遠のいてしまったように感じられても仕方がない。

2010年の上半期は、年初に想定した以上に波乱があったと思う。でも予期せぬことが起こるのが、マーケットだ。下半期の次の「○○ショック」はなんだろうと、不安に駆られそうにもなるが、自分の予想と逆に行くことも常に念頭に置いておく必要がある。

為替相場の予想を当てることは至難の業だが、「ストップロス」だけは自分の意志で入れることができる、まさかのときの命綱。ストップロスを入れることだけは怠りなくしておきたい。

執筆者紹介 : 香澄ケイト氏

主な略歴 : 為替ジャーナリスト
米国カリフォルニア州の大学に留学後、バヌアツ、バーレーン、ロンドンでの仕事を経て、帰国。外資系証券会社で日本株 / アジア株の金融法人向け営業、英国系投資顧問会社でオルタナティブ投資の金融法人向けマーケティングに従事する。退職後、株の世界から一転してFXに関する活動を開始し、為替情報サイト、マネー雑誌などの執筆、ラジオ番組への出演およびセミナー等の講師を努める。著書に『あなたのお金を10倍にする外貨投資術』(フォレスト出版)、『今すぐ始めるFX5人の投資家が明かす勝利のルール』(すばる舎)がある。