「ユーロ」の影響力

以前のようなユーロに対する悲観的なムードは一服した感があるが、悪材料はまったく払拭されたわけではない。同問題の進展が為替市場でも引き続き大きな波乱材料となる可能性は大きいが、今までの下落幅や値ごろ感から、反転する期待もある。今まで、一方的にユーロを売っていればとれた相場だったが、このレベルからは上下に乱高下する可能性もあり、いっそうユーロドルの動向に目を向ける必要があるだろう。

サブプライムローンの問題も最初は大事(おおごと)だと思わなかった。最初にニュースが報道されて、なんだろうなと訝しんでいる内に、株や為替市場がストーンと落ちる。特にGW以降のユーロの売られ方には拍車が掛かっていた。それほど深刻な状況だということが、為替市場におけるユーロの売られ方から逆に見てとれるくらいである。

ユーロ加盟国のうち、財政基盤の比較的弱い国々であるポルトガル、イタリア、アイルランド、ギリシャ、スペインの頭文字をとった「PIIGS」やソブリンリスク(財政破綻で国家が破綻する信用リスク)候補国のスペイン、トルコ、イギリス、ポルトガル、イタリア、ドバイの頭文字をとった「STUPID」と言う余りありがたくないような名称の造語まで生まれてしまった。

「BRICs 」や「VISTA」は高成長が期待できる有力新興国の造語だが(VISTAの中にはトルコが入っていたが……)、「豚」と「馬鹿」はデフォルトリスク(債務不履行)の高い国の蔑称である。

ユーロドルを中心に相場をみる

日本人である私たちは円をベースにして、ドルがいくら、ユーロがいくらと、いわゆるクロス円で考えることが多いが、今回の欧州財政問題がなくても、最も流通量の多い通貨ペア「ユーロドル」は常に為替相場の主役である。

従って、ユーロとドルという2大通貨が組み合わせられたレート、つまりユーロドルに注意して、欧州と米国の通貨のバランスを見ておくことはとても重要だ。なぜかというとユーロドルを中心に見ることで、他の通貨の動向が分かりやすくなるからだ。地理的な連動性は無視できない。カナダドルは米ドルと連動し、ポンドやスイスフランは同じ欧州通貨なのでユーロと似た値動きをする場合が多い。ドルが売られ、またユーロが売られれば消去法的に円高になる。

オセアニア通貨は、またこれらの通貨とは独立した動きをする。世界的な金融・信用不安が勃発すれば、リスク回避の動きが強まり、オセアニア通貨は売られやすくなり、円高はいっそう進展しやすくなる。

ユーロドルはトレードしないでいて、他の通貨をトレードするときは、その通貨関連の経済指標やチャートなどを見て判断していかなければいけないが、世界の2大通貨のどちらに資金が流れているかということをしっかり押さえていくことは相場全体の展開を把握するための基本になる。特に欧州財政危機の波乱を大きく含んでいる状況下では、ユーロドルの値動きには注意を払っていく必要がある。

最初から大きな問題を含んでいた

ここで少しユーロの歴史を紐解いてみよう。ユーロは、ユーロ圏の通貨統合として1999年年末に、華々しく1ユーロ=1.1667ドルの相場からスタートしたが、2000年には1ユーロ=0.8230ドルまで大きく下落した。これは、成長率や経済格差のある国をひとつの経済圏にまとめることに無理があったため、ユーロはその開始時から大きな問題を含んでいたのである。

しかし、その後のドル安ということもあり、ユーロは世界の主要通貨の第2位を確立してきた。特にここ数年、原油取引の決済にユーロを利用する動きが広がってきていたり、また、アジアの中央銀行などが、地政学的リスクからドル保有のリスクを回避するために、外貨準備としてユーロ選考を強めていたりして、ユーロは堅調に国際化に歩を進めてきた。

まだユーロの歴史は浅く、現在、欧州連合加盟国全27カ国中16カ国が加盟しているが、政治・経済と切り離して、この16カ国という大きな経済圏をひとつにすることの難しさを調整できるかどうかが大きな課題であった。つまり、経済基盤の強い国と弱い国の格差がどのように調整されるかはユーロ相場の波乱材料になってしまうことが考えられた。この懸念は現実問題となった。今回のギリシャ問題である。

EUと IMFの大規模金融支援によって、サブプライムローンに端を発した世界金融危機のようなパニックに陥ることを防ぎ、ギリシャやスペインなどを財政再建させる効果は期待されるが、この問題の根は深そうで、どこまでこういった懸念が払拭されるかどうかが依然としてマーケットに内包される波乱材料だ。

ユーロ加盟国は、金融政策や通貨統合はされているが、財政に関しては、各国が「安定・成長協定」によって財政規律が維持されることになっていた。しかし、これには強制力がなく、ギリシャのように守っていない国もいくつかある。こういったことが改善・進展されないと、ユーロ圏から一部の国が離脱する可能性もあり、ユーロの信認がいっそう低下する事態となれば、ユーロは誕生時のレートを割ってくることだってあるかもしれない。

執筆者紹介 : 香澄ケイト氏

主な略歴 : 為替ジャーナリスト
米国カリフォルニア州の大学に留学後、バヌアツ、バーレーン、ロンドンでの仕事を経て、帰国。外資系証券会社で日本株 / アジア株の金融法人向け営業、英国系投資顧問会社でオルタナティブ投資の金融法人向けマーケティングに従事する。退職後、株の世界から一転してFXに関する活動を開始し、為替情報サイト、マネー雑誌などの執筆、ラジオ番組への出演およびセミナー等の講師を努める。著書に『あなたのお金を10倍にする外貨投資術』(フォレスト出版)、『今すぐ始めるFX5人の投資家が明かす勝利のルール』(すばる舎)がある。