"魔坂"に備えるストップロス

5月6日の為替相場は、ギリシャの財政問題による市場の不安感がピークに達したため急落した。マーケットのリスク警戒感により「避難通貨」として円が買われ、1日でユーロ円は10円、ドル円は6円近くも下落した。

"まさか!"とは"魔の坂"であるはあるまいな、と思われるのが為替の世界。相場にはいろいろなショックがつきものだ。リーマン・ショックしかり、ドバイ・ショックしかり。今回の、ギリシャ・ショックも損切り(ストップロス)の重要性をあらためて、痛感させられた相場だった。

このように為替はときとして大きく動くことがあり、レバレッジ取引であるFXでは大きな損失の出る可能性がある。こういう大きな損失を防ぐために、やはりストップロスなくしてFXは語れないのである。

損なら、小さい損に留める

しかし、入れられない人も多くいるようだ。かつての自分もそうだったことを踏まえて、なぜ入れられないのかには、2つの大きな理由があると考える:

  1. 自分の予想が外れると思いたくないから、入れない。だから自分の予想が外れた場合のシナリオは描かない。つまり儲けることだけを考えているのである。当初、考えていた売買シナリオが突然崩壊することは、相場ではなんの不思議でもない。それゆえに、自分の予想が外れた場合のシナリオを同時に描かなくてはならない。
  2. ストップロスで、損切りになってしまうと「損が実現してしまう」から、入れない。そもそも損切りとは損を最小限に食い止めるためのもの。ストップロスを設定していないと、含み損がさらに大きく膨らんでしまう可能性がある。大きな含み損を抱えてしまうとさらに損切りが難しくなる。小さい損で損切れなければ、大きな損ではもっと損切りできないのが通常の人間心理。損は損でも、小さな損と大きな損、この2つのうちあなたはどちらをよしとするか考えてみるべきだ。

確かに、ストップロスを入れないでいて、相場が戻ってきたりすることもないわけではないので、そうしないという人もいるかもしれない。(事実、私も初期段階ではそうでした。。。)だからこそ言える、ストップロスを入れないことによって、小さな利益と大きな損失(損小利大の逆)というパターンを繰り返すことが多くなってしまい、結果として資金を減らす一方になってしまうことを。

資金を守るクセをつけないまま、資金を増やすことだけに意識がいってしまうと、上手に儲けることができないのである。

コツは"淡々と損切りできるレベル "

まずはポジションを持つと同時にストップロスを設定することを習慣にしよう。ポイントは損をどこまで許容できるか。迷わずに淡々と損切りできるレベルを、自分の資産規模やメンタルに合わせて調整するようにする。

ストップロスの入れ方ヒント:

【A】"魔坂"に備える

ショック的相場の暴落時などの急変に備えて、ここまでは動かないだろうと考えられる位置にストップロスを置く。安全弁(または保証)のように考える。

【B】いつも同じ位置に入れる

(特に、初心者の方の場合)数字(pipsや金額)でもよいので、最初の発注と同時に機械的にストップロスを入れておく。例えば、50pipsで損切りするのであれば、それを毎回徹底して入れること。あらかじめ、一定の損失額を想定することを念頭に。ただし、50pipsの利益を得たいのであれば少なくとも、50pips以内で損切りをしないと最終的に勝つことはできにくい。

経験を積むうちに、テクニカル指標(例えば、サポートラインやレジスタンスライン)を活用した損切りを行うこともできるようになる。

また、一度入れたストップロスを動かすことは極力避けたい。いったん動かしてしまうと、なし崩しにストップロスを動かしてしまうクセがついてしまう。これではまったくストップロスの意味を成さないことになる。

その場しのぎ的にストップロスを動かしてしまうのではなく、相場が自分の予想と違う方向に進んでしまい、設定したストップがついてしまっても、なぜそこでついてしまったのかを自分で検証することにより、将来的に、より精度の高いストップロスが入れられるようになり、結果として資金が守れるようになる。いかなる損切りの方法を使用しようが、ストップロスは感情を入れずに、機械的にルールに沿って行うことが肝要なのだ。

唯一自分にできること - それが損切り

つまるところ、損切りは損を実現化することではなく、さらに相場が大きく変動するリスクを避けるために一時的に「避難する」という気持ちを持てばよいのだと思う。自分が危険だと感じたらいったんポジションを閉じて、しっかり状況を判断してからまた上がると思えば買えばよいし、下がると思えば売ればよい。

一番ダメなのは中途半端な気持ち。損切りのコツはできるだけ早く、実行することではないだろうか。そうすれば最小限に損を抑えられ、資金を残すことができ、新たなチャンスに向かっていくことができるのである。

マーケットで勝利の方程式をつかむのは容易ではないが、損切りの方程式は、自らの意思でつかめる唯一のものなのかもしれない。

執筆者紹介 : 香澄ケイト氏

主な略歴 : 為替ジャーナリスト
米国カリフォルニア州の大学に留学後、バヌアツ、バーレーン、ロンドンでの仕事を経て、帰国。外資系証券会社で日本株 / アジア株の金融法人向け営業、英国系投資顧問会社でオルタナティブ投資の金融法人向けマーケティングに従事する。退職後、株の世界から一転してFXに関する活動を開始し、為替情報サイト、マネー雑誌などの執筆、ラジオ番組への出演およびセミナー等の講師を努める。著書に『あなたのお金を10倍にする外貨投資術』(フォレスト出版)、『今すぐ始めるFX5人の投資家が明かす勝利のルール』(すばる舎)がある。