日常生活における中国の存在

中国関連のニュースは日々、枚挙にいとまがない。例えば、直近だと2010年1~3月期の中国のGDPは前年同期比で11.9%の伸びとなり2四半期連続で2ケタ成長を示したことが挙げられる。オバマ大統領が中国元の自主的な切り上げを促したが、景気回復の力強さが確認されたことで、人民元切り上げ圧力がいっそう増しそうである。

中国は紆余曲折を繰り返しながらも、建国わずか60年で世界の経済大国へと躍進した。経済情報だけでなく、我々の生活の場面場面でそれを感じ取ることも多い。東京のあちこちで、以前より中国語を耳にする。金融危機が全世界に蔓延していても中国人の日本に対する観光意欲は衰えておらず、2008年に日本を訪れた中国人観光客は100万人に達し、過去最高になっている。

中国人の日本の個人観光ビザ申請には通常年収25万元(約325万円)以上であることが求められている。ビザ申請の大半が30代前後の富裕層だ。東京で、中国で広く普及している「銀朕(Union Pay)カード」のマークを店頭に表示している店も増えてきた。

海外に行けるくらいまで中国人の所得が向上してきた。人口規模から言っても当然のことかもしれないが、今では日本人旅行者の数をしのぎつつあると感じられる。それに彼らは何よりも元気で活力に満ちているように見える。マレーシア、サバ州のコタキナバルでも、リバークルーズのボートにおとなしく座っていたのは日本人で、中国人グループは全員立ち上がって「テングザル」に興奮していた。

日本も日本経済華々しかり頃、多くの団体ツアーが意気軒昂として海外に行った時代があった。昔日本人、今中国人。世界を救うのは、映画の世界ではアメリカのヒーローに決まっていたが、アメリカは今中国に救って欲しいと願っているのかもしれない。中国の健全な経済発展は日本にもチャンスを与えてくれるはずだ。これからより良きパートーナーとして付き合うことが得策になるだろう。

「深セン経済特区」の成功が経済成長に寄与

私は、中国を訪れるたびに、市井から中国の将来性を感じ取れることができ、その結果として人民元口座を開設することになった。ご興味のある方は当連載の『中国で人民元口座を開設する方法』をご参照いただきたい。いみじくも、市井とは、古くからの中国の言葉で、井戸のある所に人が多く集まり市が立ったところから、人が多く集まり住む場所のことを指すそうだ。実際に中国を訪れると、市井で中国や中国人への不理解や誤解を解いたりする機会にもなる。

私は、中国は、今までに、上海、広州、成都、桂林などを訪れたが、香港から最も近い中国である広東省、深セン(しんせん)市に足を運ぶ機会が最も多い。深センは、元々は小さな漁村だったが、香港に隣接しているという立地条件から、1980年、トウ小平の指揮の下に、社会主義的体制の下で資本主義的経営を実験するという壮大な計画がなされ「経済特区」として外国資本の誘致などを行ってきた。

広州のデパート

深センは、中国の発展に大きく寄与しその成長を先行させた都市と言っても過言ではないだろう。中国の将来がこの深センに掛かっていたのである。そしてそれが大成功を収めたことは、現在の中国が物語っている。深センは、現在では、製造業だけでなく、最先端の情報通信産業やサービス業も著しく発展していて、一人当たりの国民所得は中国でも最高レベルと言われている。

急成長のひずみ

洗吹(シャンプー&ブロー)は19元(約256円)。元も同じ\マーク

深センに私が始めて足を踏み入れたのは1993年。当時は、既にいくら経済特区であっても、深セン駅近辺には、路上で物乞いをする幼い子供達、猫やハクビシンなど生きた食材を売る市場、肩に乗せた猿を売ろうとするおじさん、こそこそと犬肉売りをするお兄さんなど、ちょっとした悲哀の感情を吹き飛ばすくらいの中国的なたくましい生活感に満ち溢れていた。

その時は、まだ中国的なものと近代的なものとの狭間で人々の生活が不安定に揺れ動かされ、混沌としていたように感じられたが、その数年後に再訪した時ははっきりと方向は近代化に向かっていた。深センは、今では人口1,200万人の大都市に変貌している。わずか10数年でこれだけ変化を遂げたのは、経済発展のスピードがいかに急速かを表している。そして、街を歩けば、経済の急成長によって生み出されたギャップ(ひずみ)が、そこここに存在していることを発見できる。

香港から深センには九廣鉄路(KCR)が通っており、始発の尖沙咀東駅 (Tsim Sha Tsui East)から終点深センの羅湖駅 (Lo Wu)までわずか40分足らずで日本の地下鉄に乗る気軽さでいとも簡単に中国本土に足を踏み入れることができる。

2003年夏から、香港政府は広東省の4都市から「自由行」と呼ばれる個人旅行を解禁し、深セン市の戸籍を持つ住民には香港訪問の数次ビザが発給されるようになったので、深セン市民は気軽に香港にショッピングで訪れられるようになった。こういった事象だけでも、中国の発展を垣間見ることができる。

(後編に続く)

執筆者紹介 : 香澄ケイト氏

主な略歴 : 為替ジャーナリスト
米国カリフォルニア州の大学に留学後、バヌアツ、バーレーン、ロンドンでの仕事を経て、帰国。外資系証券会社で日本株 / アジア株の金融法人向け営業、英国系投資顧問会社でオルタナティブ投資の金融法人向けマーケティングに従事する。退職後、株の世界から一転してFXに関する活動を開始し、為替情報サイト、マネー雑誌などの執筆、ラジオ番組への出演およびセミナー等の講師を努める。著書に『あなたのお金を10倍にする外貨投資術』(フォレスト出版)、『今すぐ始めるFX5人の投資家が明かす勝利のルール』(すばる舎)がある。