朝は夜より賢い?
私は12時には寝てしまうので、深夜から未明に掛けて相場を見ることはほとんどない。従って朝起きて、エッ、こんなに変動していたの! と驚くことがたびたびある。なぜ、最も激しく動くNYタイムでなぜトレードをしないかというと、自分には適さないと判断したから。
専業トレーダーの方でなければ、トレードは自分のライフスタイルをベースに組み込むべきだ。私の場合は、朝早く起きて、スタートしているオセアニア市場とニューヨークのクロージングを見ている。「朝は夜より賢い」ということわざもある。夜書いた手紙は朝見直せるが、夜行ったトレードは朝見直せない。それに朝はトレードの作戦も含めて1日の予定が立てやすい。
「仲値」イベントの活用
朝の相場を見ていると、ニューヨークでドル円が急落しても、日本独特の事情「仲値」に向けて上昇するケースがある。海外市場と比べて東京市場では食指が動かないトレーダーの方もいらっしゃると思うが、09:55の仲値公示前後は、静かな東京市場でも比較的動きが出やすい。
一般的には、仲値に向けてドル高になりがちと言われるが、ドル買い需要が多い日はドル高に、ドル売り需要が多ければドル安になり、いちがいにそうとは言い切れない。しかし、毎日この「仲値」イベントがあり、決められた時間帯で、ドルが買われて上昇する可能性があるのはこのときをおいて他にないのは事実である。
5・10日(ごとび)の仲値にはもっと注目している。慣行的に日本の手形決済は5の倍数の日に決済が集中すると言われていて、輸出入の決済も5・10日に集中し、ドルが不足することが多いので、ドル買いの需要も出やすい。実際、何人もの為替ディーラーの方に確認したら、この曜日的傾向はあるとのことだった。 従って、仲値イベントを狙ってトレードするのもひとつの方法だ。自分の場合「仲値」に向けて、9時前後からドル円が上昇し始めたらこのタイミングで参戦する。もしこの時間にその兆候が現れなければやらないと決めている。9時頃からレートがピックし始めても9時30分前に失速するケースもあるので、1分足を見ながらわずかのpipsでも早々と決済する。仲値イベントが終わってしまえば、元のトレンドのレベルに戻るケースがほとんど。大抵の場合は20pips程度しか上昇しないが、朝の小幅な利益は1日のスタートを心地良いものにしてくれる。もし、予想通りにならなくても、朝日の中では落ち着いた気持ちで敗戦処理ができる。
マーケットはより感情的に
冒頭で述べたように、ニューヨークタイムではさまざまなニュースが流れ、ときとして突発的な大波を起こす。リーマン・ショック以降、為替市場は感受性(センシティビティ)が高くなり、よって変動性(ボラティリティ)は高まっている。世界経済の先行きに不安感を与えるニュースの枚挙にはいとまがなく、突発的や失望的なニュースが流れればマーケットは急変する。
為替相場の変動要因はファンダメンタルとテクニカルに大別されると言われているが、最近では、これらに加えて、個人的に、センチメンタル(感情的)という項目を別途作りたいように感じるほどセンシティビティは高まっていると思う。
元々、為替市場のほとんどの動きは人間の感情によって展開している。だからこそファンダメンタルやテクニカルの理屈に合わないと感じてしまうときがあるのだ。例えば、為替を一方方向に動かしそうな重要なニュースだと思ったのに、マーケットはまったく逆方向に動いているなんてことも少なくない。マーケットを動かすのはニュースでなく、それを見たマーケットに実際に参加している人々の反応、つまり「(ケインズの)美人投票」なのだ。
マーケットにおけるセンシティビティが高まっているからこそ、予期せぬ突発的なニュースによる相場の急変も踏まえて、ストップロスを入れることはいっそう重要になってくる。マーケットが下落し始めると誰もこの渦に巻き込まれたくないと我先に逃げ出そうとするので、売られるときのピッチはひどく早くなってしまう。
もしも、こういったニュースが単なる噂でなく事実として定着すれば、相場は元の地合いに転じることなく、その日のトレンドを形成することになる。だから、損失が確定してもそれに捉われずに、そこからポジションを作り直せばよいのである。
日中の経済指標によるトレード
経済指標からも急変動が発生する可能性もあり、それゆえに経済指標発表を狙ったトレードをする方法もある。私は米雇用統計発表時のトレードは控えているが、日中の経済指標(主にオーストラリア)発表後にはトレードすることがある。2月11日日本時間09:30に発表された1月の豪雇用統計は予想以上で、発表後にオージー円は80pipsも急騰した。オーストラリアの場合、予想以上に好数字だと、現在の状況下ではダイレクトに利上げ期待に直結するから、オージーは素直に上昇トレンドを描いてくれると見ている。
基本的に経済指標発表直前には、自分の思惑やテクニカルに基づいたトレードは行わないで、発表後に、相場の方向性がはっきりしてからトレードした方がよい。皆の思う美人がつかみきれなかったら、いい加減な気持ちで(美人に)手を出すのはやめる。よくわからないときや自分に自信がないときは参戦しない。これも相場の基本だ。
執筆者紹介 : 香澄ケイト氏
主な略歴 : 為替ジャーナリスト
米国カリフォルニア州の大学に留学後、バヌアツ、バーレーン、ロンドンでの仕事を経て、帰国。外資系証券会社で日本株 / アジア株の金融法人向け営業、英国系投資顧問会社でオルタナティブ投資の金融法人向けマーケティングに従事する。退職後、株の世界から一転してFXに関する活動を開始し、為替情報サイト、マネー雑誌などの執筆、ラジオ番組への出演およびセミナー等の講師を努める。著書に『あなたのお金を10倍にする外貨投資術』(フォレスト出版)、『今すぐ始めるFX5人の投資家が明かす勝利のルール』(すばる舎)がある。