「大きさ」がテクニカル分析を必要とする
トレードにおいてテクニカル分析が活用されるのは、ファンダメンタルズでは短期的な収益につなげるのが困難だからだ。経済の流れを一日とか一週間単位または一ヶ月単位でつかもうとするのはとうてい無理なこと。だからファンダメンタルズよりもテクニカルで為替の動きを見る。
為替では株以上にテクニカル分析が重要視されているように思えるが、その理由は「大きさ」にあると考えている。日経225先物を例にとってみると、日経225先物を取引する時、ほとんどのトレーダーはテクニカルで分析してトレードしている。となると、日経225構成銘柄は大型株なので、個々の大型株もある程度テクニカルで動く傾向にあるととらえることができる。仮に、世界で最も大きい為替市場を超大型株と見なせば、テクニカルが重要視されるというロジックが考えられる(逆に小型株は仕手が入って株価が操作されたりして、テクニカルでは説明できない動きをしたりする)。
テクニカル分析はトレードを行う上で、必要となる意志決定、つまり売るか買うかを決定する際のとても重要な判断基準となる。一言にテクニカル分析といっても、今までさまざまな手法が開発されており、その数は主だったものだけでもなんと40種類以上もある。そんな多く有る中で、一体皆どんなものを使っているのか、周囲の為替および株式相場関係者10人(現場主体)に尋ねてみた。自分の周囲の人間だけに訊いたので、偏向しているかもしれないが、使用度の高いテクニカル指標はその有効性の表れであり、また相場への影響も大きいということになるので、もし近道を望むのであれば、そういった点も考慮してみたらいかがだろう。
時間、経験そして努力
ほぼ全員から名前が上がったのがローソク足と移動平均。大方予想通りだったのは、この二つがテクニカル分析の基本中の基本だからである。どちらかを使っているか、または両方を併用している人が多い。特に株関係者はこの二つをメインにしている人がほとんどで、これにプラスして他に何を見ているかといえば、せいぜい一目均衡表あたりまで。株はテクニカル以外の要因も多いという確認が取れたような気がする。
ローソク足と移動平均がなぜ基本中の基本かは、マーケットはトレンドが重要と言われるからである。ローソク足は、一本の足形に日足・週足・月足の「始値・高値・安値・終値」の主要なデータの全てが含まれていてビジュアル的で全体像が把握しやすい。移動平均は、シンプルで分かりやすいことに加えて、大局的なトレンドのとらえやすさやその汎用性が特長だ。
一目均衡表、エリオット波動などの"波"系を使用する人も多い。両方とも好きな人はとことん好きというような点も共通しているのは、古典的であるがゆえに奥もまた深いからだろう。機械的に売買サインが出るようなテクニカル手法とは違って、相場に対する自分なりの考え方を確立していて、そこから答えを読み取る力(想像や推察)が備わっていないと使いこなせないような気がする。そこまで到達するには多くの時間と経験そして努力が求められる。
他には、移動平均線の上下に標準偏差の幅を描いたボリンジャーバンドも人気があるようだが、こちらはローソク足と移動平均のいずれかまたはその両方と併用している人が多いようだ。
論理よりも実践で儲ける
相場の流れには前述のトレンドという大きな潮のような方向性と、その潮の流れの中に波のような小さな上下波動が必ずある。為替市場では、株式や先物市場と異なり、相場の強弱を見るために必要な出来高が把握できない。これは為替取引が市場性取引と異なり、相対取引であることが大きな理由だが、それだけ為替市場がとても大きな市場であるということだ。
株式市場では株価の推移と一緒に出来高の変化を見るのが普通だがこういった出来高が把握できない為替市場において、オシレーター系分析では市場における「強弱感(モメンタム)」を判断する。だからなのか、株関係者からはオシレーター系分析の話は全く出てこなかった。相場の大きな流れの中で売買チャンスを探すにはRSI、MACD、ストキャスティクスなどのオシレーター系指標が便利だ。つまり相場のトレンドで「買い」か「売り」を決定したら、こういったオシレーター系の指標を見ながら、「売られ過ぎの時に買う」「買われ過ぎの時に売る」と取引の確度は高くなる。オシレーター系指標はあくまでも補完的なものなので、単独で使用すると売買の判断を間違う可能性がある。
テクニカル分析は研鑽を積んでいかなくてはいけないし、人間の欲望と期待という心理を表しているだけに、奥深いものがあるとは思うが、理論的なことに執着するよりも実践的な考え方や発想をした方がトレードに適している。なぜかというと、トレーダーは相場を語るためではなく、お金を儲けるために参加しているからである。
執筆者紹介 : 香澄ケイト氏
主な略歴 : 為替ジャーナリスト
米国カリフォルニア州の大学に留学後、バヌアツ、バーレーン、ロンドンでの仕事を経て、帰国。外資系証券会社で日本株 / アジア株の金融法人向け営業、英国系投資顧問会社でオルタナティブ投資の金融法人向けマーケティングに従事する。退職後、株の世界から一転してFXに関する活動を開始し、為替情報サイト、マネー雑誌などの執筆、ラジオ番組への出演およびセミナー等の講師を努める。著書に『あなたのお金を10倍にする外貨投資術』(フォレスト出版)、『今すぐ始めるFX5人の投資家が明かす勝利のルール』(すばる舎)がある。