1カ月に一度あるもの。給料日? ブブーッ、正解は「米国の雇用統計」。25日ではなく発表は毎月第一金曜日で、しかも時間も日本時間で21:30(冬時間は22:30)現地では08:30と決まっている。なぜ雇用統計? それは為替市場で最も注目度が高い経済指標だから。
平素から最重要指標であるのに加えて、今回の金融・経済危機において、今後の米国の景気動向が一段と重視されるので、為替や株をやっている方だけじゃなく投資をしてない人の日常生活においても雇用統計をウォッチするのは重要と思われる。
米雇用統計とはどんなもの?
項目は多くあるが、中でも「失業率」と「非農業部門雇用者数(NFP=Non-Farm Payroll)、以下"NFP"と呼称」の数値に注目。「失業率」は労働人口の内の失業者が占める割合で、もちろんこの数値が上昇すれば景気状況が悪いというのは分かるが、NFPという言葉は初めて聞いた方も多いのでは。NFPとは農業部門を除いた労働者数の増減を指す。こちらは数値が(プラス)で増加すれば景気が良いと判断できる。
なぜ注目されるの?
- 米国では企業の業績が悪くなると直ぐにリストラやレイオフを行うことが多いので、景気に対して先行する指標として捉えられている。つまり景気との連動性が高い。
- 個人消費や他の重要指標ひいては金融政策などとの関連性が高い。米国では個人消費がGDPの6割をも占めるため、雇用情勢が個人消費や経済に与える影響は多大。
- 速報性が高い。前月の数値が翌月の第一金曜日に発表されるので直近の経済状況が分かる。
予想と修正に注意
予想より良い結果であればドルは買われ、逆に悪ければ下落する。基本的には予想以下か予想以上かが一番重要。つまり事前予想との乖離に注意する。しかし、事前に悪い悪いと言われていて既にレートに織り込まれていたため(既にドルは売られていた)発表後に買い戻されて上昇ということもある。大体の経済指標は事前の予想からある程度相場が織り込んでいる場合が多いが、この雇用統計ほど予想とのギャップ(差)が大きいものなく、かつては事前予想から大きく外れるサプライズケースが多かった。そういう意味でも予想外だったらそのインパクトは大きくマーケットに影響する。また、前月および前々月の数字の修正にも注意すること。大きく下方修正されるとドルが売られる可能性もある。
発表前後マーケットはどう動く?
一大イベントなのでお祭り騒ぎのようになる。流動性が低下して価格が大きく上下したりすることもあるので発表前後の値動きには要注意。この瞬間的な値動きを捉えて短期的なトレードをする人も多いが、この時注文が約定しづらくなったり、レートのスプレッド(買値と売値の差)が拡大したり、FX会社にアクセスが殺到してログインできないなどということもあるので注意したい。
雇用統計の推移
2月の雇用統計は米経済の悪化を裏付ける内容で、NFPは前月比で約65万人減少し14カ月連続で減少したが、それだけでなく失業率も8.1%と25年ぶりの高水準に達した(図表参照)。今まではマーケットでは失業率よりもNFPの増減が注目されていたが、これからは一層上昇する可能性のある(場合によっては10%台もあるかも?)失業率にも注目したい。もう既にNFPは-60万人台に乗っているので、ここから3万人とか5万人とか減少したくらいでは余りインパクトはなさそうだからだ。あるエコノミストの方がおっしゃっていたが、毎月失業者を60万人も出しているようなスピードなので、後2カ月くらいこのような状況が続いたら一挙に-10万人くらいに回復する可能性もあるかもしれないとのこと。その時マーケットは大きく動く可能性もある。
雇用統計の推移 |
2月の雇用統計発表時マーケットはどう動いたか
3月6日(金)東京からロンドンに掛けては発表前のNFPが100万人減少するのではという噂からドル売りが強まり雇用統計発表の瞬間を迎えた。雇用統計は若干弱めながらも直前にかなり弱めに市場見通しが振れていた分予想の範囲内と市場は判断し(サプライズ的なインパクトなし)ドルが買い戻され、ドル円は96円台から98円台へ上昇し、98円台の動きが中心となった。(チャート参照)
為替は世界経済の中で動いている。だから経済指標を気にするかしないかで得するか損するかが断然違う。世界経済? そんなグローバルに経済を見るの? 確かに大変だ、世界中の経済指標を全部ウォッチしろっつったってね~。でも、大丈夫そんなに難しく考える必要はない。
基本的には世界経済の要であり基軸通貨ドル(シェアもNo.1)の国である米国の経済指標を抑えればよいのだ。後は自分が取引している通貨ペアに関連した国の経済指標を見るということ。だって、ユーロ/ポンドをトレードしているのに、豪州と日本の経済状況を見てもあんまり意味ないから。今回は"王様"をご紹介させていただいたが、他にも重要な経済指標はあるので、また別の機会にご説明したい。
執筆者紹介 : 香澄ケイト氏
主な略歴 : 為替ジャーナリスト
米国カリフォルニア州の大学に留学後、バヌアツ、バーレーン、ロンドンでの仕事を経て、帰国。外資系証券会社で日本株 / アジア株の金融法人向け営業、英国系投資顧問会社でオルタナティブ投資の金融法人向けマーケティングに従事する。退職後、株の世界から一転してFXに関する活動を開始し、為替情報サイト、マネー雑誌などの執筆、ラジオ番組への出演およびセミナー等の講師を努める。著書に『あなたのお金を10倍にする外貨投資術』(フォレスト出版)、『今すぐ始めるFX5人の投資家が明かす勝利のルール』(すばる舎)がある。