FXの大相場の数々を目撃してきたマネックス証券、マネックス・ユニバーシティ FX学長の吉田恒氏がお届けする「そうだったのか! FX大相場の真実」。為替相場分析の専門家がFXの歴史を分かりやすく謎解きます。今回は「アノマリー」について紹介します。

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2016年11月9日、米大統領選挙での共和党トランプ候補の勝利が決定に向かう中で、米ドル/円は101円まで急落しました。しかし、その後上昇に転じると、結局105円に戻してその日の取引を終えました。その日の寄り付き水準を僅かながら上回っての引けとなったことで、チャート的には米ドルの陽線(米ドル高)引けとなったのです。

そしてそれは、米ドル快進撃の始まりでした。米ドル/円は12月15日には118円台半ばまで急上昇したのです。何と、1カ月余りの短期間に17円もの大幅な上昇を演じるところとなりました。これこそが、為替相場において「トランプ・ラリー」と呼ばれた動きだったのです。

では、なぜ「トランプ暴落」が不発に終わると、一転してこのような「トランプ・ラリー」に向かうところとなったのか。私からのそれに対する答えは、「米大統領選挙後の相場とはそんなもの」ということです。

米大統領選挙年の「アノマリー」

4年に一度行われる米大統領選挙前後の為替相場には特徴的な傾向がありました。それは、選挙前は方向感を欠いた小動きが続きやすいが、選挙前後から突然一方向へ大きく動き出し、一気に年初来の高安値どちらかを更新するというものです。

このような特徴的な相場の傾向が続いてきた理由を、論理的に説明するには難しいものがあります。ただし、理屈はよく分からないものの、似たようなパターンが繰り返されるーーー。こういったことを金融市場では「アノマリー」と呼びます。

上述のような、「選挙前は方向感を欠いた小動きが続きやすいが、選挙前後から突然一方向へ大きく動き出し、一気に年初来の高安値どちらかを更新する」というプライス・パターンは、私がこれまで自身の本などでも紹介してきた米大統領選挙年の代表的なアノマリーでした。

たとえば、2016年の前回の米大統領選挙は2012年11月でしたが、この時も選挙前後から突如大きく動き出した米ドル/円は、一段高となって年初来高値を更新しました。後から振り返ると、それは「アベノミクス円安」の始まりだったのです

  • 2012年の米ドル/円(出所:リフィニティブ・データをもとにマネックス証券が作成)

    2012年の米ドル/円(出所:リフィニティブ・データをもとにマネックス証券が作成)

その前は2008年11月。いわゆるリーマン・ショックの大混乱の最中だったこともあり、米ドル/円は一段安となり年初来安値を更新しました。そして2004年は選挙後に米ドル一段安へ、2000年は選挙後に米ドル一段高へといった具合に、論理的に説明できないものの、選挙後には一方向へ大きく動く「アノマリー」が続いてきたのです。

さて、結果的に2016年11月の米大統領選挙後に一段高となり、年初来高値(121円)更新には至らなかったものの、ほんの1カ月余りで最大17円もの米ドル/円急騰となった「トランプ・ラリー」は、やはり「アノマリー」通りの動きだったということもできるような結果だったのです。