FXの大相場の数々を目撃してきたマネックス証券、マネックス・ユニバーシティ FX学長の吉田恒氏がお届けする「そうだったのか! FX大相場の真実」。今回は「ITバブル崩壊局面のカラクリ」を解説します。

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  • ITバブル崩壊局面のカラクリを解説

    ITバブル崩壊局面のカラクリを解説

株安となるリスクオフ局面では円高になりやすいというのが、この原稿を書いている2020年5月時点の基本的認識でしょう。ところが、前回も書いたように、三大株バブル崩壊相場の一つとされる、その意味では代表的リスクオフ相場の一つでもあったITバブル崩壊局面では、為替相場は大幅な円安となったのです。

ところで、そんな「意外な結果」を、当時まだFXがスタートして間もない頃のセミナーで、私は予想し、それが確かに的中したようになったということを、前回の最後で書きました(本当なんです! その私のセミナーは、こんなふうに始まりました)。

「最初に結論を言います。米国株のバブル崩壊が始まった可能性があると思います。ただ、だからこそ、×××の理由から、経験的には3カ月以内に米ドル高・円安への大きな動きが始まる可能性があると思います」。

カラクリはレパトリ(資本の母国回帰)!?

問題はこの「×××」の部分で何を語ったか。私はこんな話をしたのです。

「過去のバブル崩壊とされる株暴落局面における為替相場の動きを調べたところ、震源地の通貨は、当初は株と一緒に下落するものの、3カ月以内に下落は一巡し、その後はむしろ下がる株価を尻目に、通貨は上昇に向かうのが基本でした」。

それまでの経験を参考にすると、ITバブル崩壊相場が米国発なればこそ、為替相場は米ドル安・円高が短期間で一巡し、その後は米ドル高・円安に向かう可能性が高い、私はそんな予想を述べたのでした。

ここで私が、「過去のバブル崩壊とされる株暴落局面」として参考にしたのは、主に1987年10月からのブラックマンデー(暗黒の月曜日)と呼ばれたNY発世界同時株暴落と、1990年1月からの日本経済のバブル崩壊に伴う株暴落の2つでした。

当時の米ドル/円の動きを見ると、上述のように、株暴落の震源地の通貨は、暴落直後こそ一緒に下落しましたが、ただそれは3カ月以内といった具合に、短期間で一巡すると、その後はむしろ通貨高に向かっていました。

  • 【図表】米ドル/円と株暴落の関係(1987~1992年)(出所:リフィニティブ・データよりマネックス証券が作成)

    【図表】米ドル/円と株暴落の関係(1987~1992年)(出所:リフィニティブ・データよりマネックス証券が作成)

では、なぜバブル崩壊ほどの本格的な株安局面で、為替相場においては株安震源地の通貨が上昇に向かったのか。それについて、当時の私はセミナーの中で「レパトリエーション(資本の母国回帰)の影響ではないか」と述べました。

株価が大きく下落すると、株安当事国の企業などは損失を埋めるべく、内外の投資を引き揚げます。このうち外国への投資の引き揚げは、自国通貨買いになりますこれをレパトリエーション、資本の母国回帰といいます。それが、バブル崩壊のような本格的な株安局面で起こると、結果として通貨は上昇に向かいました。それなら今回も、米国株のバブル崩壊が始まったと考えているからこそ、米ドル安は限定的で、間もなく米ドル高に向かっていくのではないか。

それが、この2000年3月に私がFX投資家向けのセミナーでお話ししたメイン・テーマでした。米株安だけど米ドル高となっていったのは、本当に私が述べた理由によるものだったかはともかく、それはまさに芥川龍之介の小説『藪の中』の世界のように、真の理由などは「藪の中」でしかないのですが。

結果的には2000年3月から米ナスダック指数の暴落が始まったものの、米ドル/円は3月に1米ドル=102円と、1月に記録した101円台の底値を更新することなく、その後二番底を確認すると(「底値=一番底」更新に至らないことを「二番底」といいます)、米国を始めとした世界的な株安の拡大を尻目に、本当に上昇(米ドル高・円安)へ向かっていったのでした。