FXの大相場の数々を目撃してきたマネックス証券、マネックス・ユニバーシティ FX学長の吉田恒氏がお届けする「そうだったのか! FX大相場の真実」。今回から「ITバブル崩壊編」がスタートします。
今回からITバブル崩壊編に入ります。まずITバブル崩壊とは何かといえば、株式市場の場合なら、1995年に1,000ポイントを上回ってきた米ナスダック指数が、2000年までの約5年で5,000ポイント以上に急騰したものの、その後の2年半で7割以上も暴落し、1,000ポイント台に戻った出来事でした。1929年から起こった世界恐慌での米株暴落などとともに、代表的な株バブル崩壊相場の一つとされています。
ところで、FX(外国為替証拠金取引)は1998年からスタートしたので、このITバブル崩壊による株暴落は、FXがスタートしたばかりのタイミングで起こったものでした。では、そんな世界的な株暴落、別な言い方をするとリスクを回避するリスクオフ局面において為替相場はどんな動きになったかといえば、大幅な円安が進行するところとなったのです。
2年半で7割以上もの米ナスダック指数暴落
株暴落、しかもその主役はITの中心地である米国なら、米国の通貨である、米ドルも下落しそうだと思いませんか? あるいは、リスクオフ局面では、教科書的には「安全資産」の円が買われやすいといったことを、何となく聞いたことはありませんか?
なぜリスクオフでは円が「安全資産」として選好されるかといった疑問はずっとありますが、ただ確かに結果としてそうなることが多かったことは事実です。たとえば、「リーマン・ショック編」でも書いたとおり、リーマン・ショックの株暴落局面でも、それを含む信用バブル崩壊とされた局面でも、継続的に株安が展開したリスクオフ局面では、為替相場は継続的に円高が展開しました。
比較的最近の代表的なリスクオフは「あれ」、つまり、英国の国民投票の結果EU離脱賛成多数となり、世界中をビックリさせた2016年6月のBrexitショックでしょう。この「超ビックリ」の結果を受け世界的に株価が暴落すると、それを横目で見ながら、為替相場は1米ドル=100円を割る米ドル安・円高となったのでした。
以上のように見ると、確かに株暴落のリスクオフ局面では円高になることが多かったわけです。ところが、ITバブル崩壊では、上述のように円安、しかも比較的大幅な円安が進行するところとなったのです。
少し具体的に見てみましょう。ITバブル崩壊の株安局面とは、基本的にはナスダック指数が2000年3月の5,000ポイント台から、2002年10月に1,000ポイント台まで、約2年半で7割以上下落した局面のことをいいます。この当時の為替相場、米ドル/円の場合は、2000年1月の1米ドル=101円から、2002年3月に135円まで米ドル高・円安となったのです。
2年余りで30円以上もの米ドル高・円安、そして絶対水準としても130円以上の円安は、その後今(執筆時2020年5月時点)に至るまで起こっていません。なぜ、代表的な株バブル崩壊相場の一つとされるITバブル崩壊局面で、「リスクオフの円高」といった教科書とは反対の円安、しかも大幅な円安となったのか。それこそが、まさに、FX大相場であるITバブル崩壊相場における「謎」の一つといえるでしょう。
ところで、すでに述べたように、このITバブル崩壊は、FXがスタートして間もないタイミングでもありました。このため、私がFXの投資家向けにレポートやセミナーでの情報発信を本格化したのも、まさにこの頃だったのです。
今でもよく覚えているのは、2000年3月、東京・高輪のあるホテルの会場で開催したセミナーでした。お客様は50名くらいだったでしょうか。そこで私はこんなふうに話し始めました。
「最初に結論を言います。米国株のバブル崩壊が始まった可能性があると思います。ただ、だからこそ、×××の理由から、経験的には3カ月以内に米ドル高・円安への大きな動きが始まる可能性があると思います(当時の原文ほぼそのままです)」。
今から思うと、このセミナーこそが、その後の私とFXとの関わりを決めたように思います。結論を言うと、このセミナーで私が予想したことは、結果的にとても的中したようになりました(まぐれです)。そして、そのように予想する方法、「メソッド」(メソッドと言えるかは微妙ですが)、そして「最初に結論を言う」といったセミナー・スタイルも、もうかなり出来上がっていたんですね。×××が何だったのか、次回はそれをお話しします。