FXの大相場の数々を目撃してきたマネックス証券、マネックス・ユニバーシティ FX学長の吉田恒氏がお届けする「そうだったのか! FX大相場の真実」。今回はリーマン・ショック後の日本の動きを解説します。

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NYダウの下落が終わったのは2009年3月。一方、米ドル/円は下落傾向が続き、2010年に入ると、いよいよ円の戦後最高値(米ドルは最安値)、1995年4月に記録した1米ドル=80円が視界に入ってきました。

円高過敏の日本から、円高阻止への期待は高まる。一方リーマン・ショック後の「100年に一度の危機」からの脱出のためには、未曽有の米金融緩和も、それを受けた米ドル下落も「しょうがない」。そんな中で、日本の通貨当局が、この局面で最初の米ドル買い・円売りの円売りの円高阻止介入に動いたのは、2010年9月15日でした。

最安値の米ドルを8兆円買った日本の通貨当局

前にも書いたように、それは事実として、リーマン・ブラザーズの突然の破綻となった2008年9月15日からちょうど 丸2年経過したタイミングでした。当時、米ドル/円は、1米ドル=80円のヒストリカルロー(米ドル最安値)に急接近していました。その回避のためについに介入したのか、もしかしたら「リーマン記念日」への意識もあったかもしれないですね。

それにしても、この局面での日本の通貨当局の為替介入は、それまでとかなり違うものでした。「違った」のは何かといえば、あまり介入をやらなかったのです。そしてやる時には、凄い規模でやったのです。

せっかくですから図表でそれまでの介入との違いを確認しましょう。誰が見ても、明らかな違いは、介入1回当たりの平均介入額、そして1回の最高介入額でしょう。この局面で行われた介入は、この2つの点がとくに図抜けた数字になっていました。

  • 【図表】<参考.日本の主な為替介入>(出所:財務省資料をもとにマネックス証券作成)

    【図表】<参考.日本の主な為替介入>(出所:財務省資料をもとにマネックス証券作成)

これは何なのか。「しょうがない」と思いながら、国内の円高阻止期待も知らんぷりできないからといった「アリバイ工作」(日本の政治家や官僚がよくこれをやると言われますよね)だったのか、その割には投入した金額が半端ないものだったのはなぜか。

円高阻止なので、この局面での介入は米ドル買い・円売りです。それを、過去にないほどの規模で行った、つまり結果的には米ドルの最安値圏で大量に購入したことになったわけです。その点で見ると、「アリバイ工作」どころか、米ドルはもうこれ以上は下がらないことがわかった上での確信犯のようでもありました。

米ドル/円の今のところの最安値は、2011年10月末の1米ドル=75円。財務省資料によると、そこで日本の通貨当局は、1日の為替介入額としては図抜けた8兆円もの米ドル買い・円売り介入に動いたのです。

最安値で8兆円もの米ドルを買った―――、FXならレバレッジをかけなくても、いやせっかくだから2~3倍かけても、決して過大なリスクテークではないはずです。しかし、それにしてもその後の米ドル/円は2015年にかけて125円まで上がったので、どれだけ儲かったのでしょう。いや当局だから儲けは関係ないでしょうが。

といった具合に、介入といった政策でありながら、結果的には最安値の米ドルを巨額の規模で買うという、ありえないほど見事過ぎるトレードが、リーマン・ショック「その後」の終わりに起こったのですが、知っていましたか!?

「なるほど!」「そうだったのか!!」、そして「FXって面白い!!!」。そう思ってもらえたでしょうか。もしそうなら、トランプ・ラリーより、アベノミクスより長く、22話も続いた「リーマン・ショック編」の筆をついに置こうと思います。