FXの大相場の数々を目撃してきたマネックス証券、マネックス・ユニバーシティ FX学長の吉田恒氏がお届けする「そうだったのか! FX大相場の真実」。今回は「相場急変時の心構え」を解説します。

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「リーマン・ショック編」の第1回でも書いたように、リーマン・ショック「最悪の日」となった2008年10月24日、の米ドル/円の最大下落率は7%にも達しました。一方でこの日の豪ドル/円の最大下落率はそれをさらに大きく上回り、16%にも達したのでした。

ちなみに、この2008年10月の変動率(<高値-安値>/終値)を見ると、米ドル/円は15%でした。これはこれで凄い数字で、それまでの月間変動率が5%前後で推移してきたところから一気に3倍も急騰したわけで、前回も書いたように、こういったことがFXのレバレッジ規制強化につながっていきました。

ただ、豪ドル/円はどうかというと、この2008年10月の変動率はなんと45%にも達したのです。これまで見てきたように、リーマン・ショック大相場により、米ドル/円のボラティリティー(変動率)急騰も凄かったわけですが、豪ドル/円はそれをはるかに上回る結果となったのです。

  • 【図表】豪ドル/円の週足チャートの推移(2005~2009年)(出所:マネックストレーダーFX)

    【図表】豪ドル/円の週足チャートの推移(2005~2009年)(出所:マネックストレーダーFX)

「リーマン・ショックの経験」に学ぶ相場急変時の心構え

前回も述べたように、相場におけるリスクとリターンの大前提はボラティリティー(ボラ)です。ボラが高くなったら、リスクを抑制するのが基本であり、それがレバレッジ規制強化につながったわけです。

では、これまで見てきたように、リーマン・ショックにおける米ドル/円と豪ドル/円ではボラに大きな差がありました。米ドル/円よりはるかにボラが高くなった豪ドル/円におけるレバレッジ規制の上限設定は米ドル/円と同じで良いのか。米ドル/円より、豪ドル/円のレバレッジ上限を低くする必要はないのか。

このようなFXのレバレッジ基準を通貨別に決めるといった考え方は、これまでのところ実現に至っていません。しかし考え方としては、投資家の方々がしっかり理解しておく必要のあることだと思います。

リーマン・ショックにより1日で7円も米ドル/円が暴落したのが遠い昔となり、米ドル/円は2019年にかけて3年連続で1年間の値幅でも10円程度の小幅にとどまるといった低いボラティリティー、低ボラが続きました。

ところが、2020年になり、新型コロナ・ウイルス問題が深刻化すると金融市場もパニックとなり、為替相場、米ドル/円もボラティリティー急騰となりました。2020年3月の米ドル/円は1米ドル=101~111円と、1カ月で10円の値幅に急拡大したのです。3年連続で1年間の変動幅だったものを、たった1カ月で達成してしまったわけです。

このように、長く続いた低ボラから、空前の高ボラへ相場が激変した時、投資家はどのように頭を切り替える必要があるのでしょうか。それには、これまで述べてきた「リーマン・ショックの経験」が参考になるでしょう。

ボラが急騰したら、リスク許容度を下げる、つまりレバレッジをこれまでより低くする必要があるでしょう。そして通貨別でボラは違うのだから、比較的ボラが低く、流動性の豊富な米ドルなど先進国通貨の取引ウェートを高め、相対的にボラの高いクロス円や高金利通貨の取引をより慎重に行うことも必要です。

今回このシリーズで「コロナ・ショック」のFX大相場について書く予定はありません(気が変わるかもしれませんが……)が、せめて「リーマン・ショックの経験」を「コロナ・ショック」を乗り切る上での一つの参考にしていただければ幸いです。