FXの大相場の数々を目撃してきたマネックス証券、マネックス・ユニバーシティ FX学長の吉田恒氏がお届けする「そうだったのか! FX大相場の真実」。今回は「リーマン・ショック『最悪の日』」を解説します。
これまで私が代表的な「FX大相場」として取り上げてきた2016年の「トランプ・ラリー」、そして2012~2015年にかけての「アベノミクス円安」は、基本的には株高、リスクオン中心の相場であり、その中での中心は円安でした。これに対して今回の「リーマン・ショック」は、歴史的な株安、リスクオフとなり、そこでは円高が劇的に進むところとなったわけです。
米ドル/円以上にクロス円が暴落した理由
それにしても、なぜリスクオンなら円安、リスクオフなら円高といったことになるのでしょうか。これはよく議論のテーマにあがるものですが、統一的な答えがあるというものではありません。
今回のメイン・テーマであるリーマン・ショック前後の歴史的なリスクオフ局面では、まさに「リスクオフの円高」となったのですが、じつはその前の代表的なリスクオフ、2000年代前半に展開したITバブル崩壊(破裂)局面では「リスクオフの円安」となりました(なぜそうなったかについての私の考え方は、「ITバブル崩壊編」で披露する予定です)。
そして、私がこの原稿を書いているまさに今、現在進行形で起きている「リーマン・ショック以来」とされることの多い史上稀にみるほどの新型肺炎発のリスクオフ、「コロナ・パニック」では、途中から流動性危機への懸念から、基軸通貨米ドル確保の動きが急拡大し、米ドル全面高で「リスクオフでの円安」となったのです。
話が横道にそれてしまいましたが、元に戻しましょう。このシリーズで初めてとりあげるリスクオフ、その代表例の一つであるリーマン・ショックでは劇的な円高が広がりました。別な言い方をすると、米ドル安ではなかったということです。
たとえば、リーマン・ショック「最悪の日」とした2008年10月24日前後、具体的には9月から10月末にかけて、米ドル/円は1ドル=110円程度から90円割れ近くまで急落、つまり米ドル安・円高となりました。ただその一方、ユーロ/米ドルは1ユーロ=1.5ドル手前から1.2ドル割れ近くまで急落、それはユーロ安・米ドル高だったのです。
同じように急落したけれど、米ドル/円では米ドル安、一方のユーロ/米ドルでは米ドル高だったわけです。この辺りは慣れないと「FX(為替)って難しい」と思っちゃうかもしれませんが、思わないでください!! すぐに慣れますから。「なるほど!」「そうだったのか!!」「FXって面白い!!!」と感じていただくために書いているのですから。
理解してもらいたいのは、このリーマン・ショック前後の米ドルは、対円では下落(米ドル安)でしたが、対ユーロでは上昇(米ドル高)といった具合で、正反対の動きになったということです。この時の 円、米ドル、ユーロといった世界三大通貨の強弱関係は円>米ドル>ユーロだったわけです。
これで分かるのは、歴史的なリスクオフだったリーマン・ショックでは、円が最も選好され、そして次に米ドルも選好されたということです。米ドル/円では円高(米ドル安)になったわけですが、米ドル以外の外貨との取引であるクロス円ではさらに円高が大きく反応しやすかったのでした。そしてそれが最もわかりやすい結果となったのが、豪ドル/円の大暴落だったということでしょう。