FXの大相場の数々を目撃してきたマネックス証券、マネックス・ユニバーシティ FX学長の吉田恒氏がお届けする「そうだったのか! FX大相場の真実」。為替相場分析の専門家がFXの歴史を分かりやすく謎解きます。今回は「ドラギ・マジック」を解説します。

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「絶望とは愚者の結論なり」という言葉ご存知ですか?これは19世紀の英国の政治家&小説家のベンジャミン・ディズレーリ(1804~1881年)の発言とされています。

「絶望するのは愚者だけである。賢い者は、決して絶望したりせず、希望を見つけ出す」―――。これは、私がこれまでの人生で出会った中で、最も好きな言葉の一つです。あの2011年3月に起きた東日本大震災の後、またこの2020年、突然パンデミック(世界的な大流行)に急襲され未曽有の「コロナ・パニック」となっている中で、改めてかみしめている言葉です。

そして、わが友ドラギ(塩野七生さんが「わが友マキアヴェッリ」と呼んだことを真似てみました)が、2012年7月にやったことは、まさにその言葉を実践したものだったと思っています。

  • 【図表】ユーロ/米ドルの週足チャート(2012年)(出所:マネックストレーダーFX)

    【図表】ユーロ/米ドルの週足チャート(2012年)(出所:マネックストレーダーFX)

実質的なECBの「無制限介入」

2012年7月26日、ドラギ総裁が就任した2011年11月に1.4ドル程度だったユーロ/米ドルは、この日1.2ドル割れ寸前まで下落していました。すでに欧州債務危機の主役はイタリアから、もう一つの欧州の大国(サッカー的には超大国)のスペインに移り、スペインの長期国債(10年債利回り)は7%以上に上昇していました。この状況が続くようなら、スペインもデフォルトに追い込まれてしまう-。

そういった中、シンポジウムで講演したドラギ総裁の発言こそが、これまですでに何度も紹介した例の名台詞だったのです。「ユーロを守るためなら何でもやる。私を信じてくれ」。

そして、この後のECBの会合で決めたのは、このスペインのように債務懸念から暴落している国の国債を、条件付きではあるものの、ECBが実質的に無制限で購入する政策(OMT=国債買い入れプログラム)だったのです。

このドラギ総裁発言と、その後のECBの政策決定などを受けて、ユーロ相場(対米ドル)は1.2ドル割れを回避すると、反発に急転換となりました。それはまさに欧州債務危機が解決に向かうことと連動したものだったのです。

ギリシャから始まり、その後欧州諸国に拡大した債務危機は、EU、欧州の制度的、構造的な問題が前提となっているだけに、早期の解決は困難な構造問題だといった見方が一般化しました。

(ホント、この頃のユーロについてのセミナーは、早期の解決は無理だからユーロ安はまだまだ続く、みたいな意見がとても多く、それとは正反対の私のユーロ安は行き過ぎといった意見はいかにもへそ曲がりな感じで見られたものです)

しかし、結果的にはドラギ総裁発言を境に、上述のようにユーロ相場は反転し、そして欧州債務危機も一段落に向かったのです。そしてとても重要なことは、ECBが問題ありとされたスペインやイタリアの国債を無制限で購入したことで、国債価格が反発に転じた、ということではなく、要するにECBが買わなくても、問題国の国債価格は反発に転じ、欧州債務危機は終息に向かったということです。

伝わったか非常に心配なので、言い直しますね。スペインやイタリアのような欧州債務危機において問題とされた国債が上昇(利回り低下)に転じたのは、ECBが無制限に買ったからではなく、買わないのに、買うと言ったらそうなったということがとても重要だったと思います。それってまさに「ドラギ・マジック」でしょう!? なぜそうなったか、次回で謎解きします。