FXの大相場の数々を目撃してきたマネックス証券、マネックス・ユニバーシティ FX学長の吉田恒氏がお届けする「そうだったのか! FX大相場の真実」。為替相場分析の専門家がFXの歴史を分かりやすく謎解きます。今回は「ドラギ・マジック」を解説します。
前回でも書いたように、2011年11月、ECB(欧州中央銀行)総裁が3代目に交代する頃、ギリシャから始まった債務危機は他の欧州諸国にも拡大、まさに欧州債務危機となっていました。
まだギリシャ債務危機の段階では、欧州統一通貨のユーロは下落していたわけではありませんでした。しかし欧州債務危機となると、さすがにユーロの下落リスクも拡大してきたのです。そしてそんな欧州債務危機の主役がイタリアでした。
ECBは欧州債務危機に対して最も重要なプレーヤーと位置付けられる存在でしょう。その危機の主役がイタリアなのに、最重要プレーヤーのトップにイタリア出身者が就任するということで、果たして大丈夫なのか? 振り返ると、「ECB・ドラギ丸」は、そんな期待値の低い、むしろ否定的な見方の強い中でのスタートとなったのです。
ユーロ安での「ECB・ドラギ丸」の船出
2011年5月に1.5ドルまで上昇したユーロ/米ドルは、同年11月のドラギECB第3代総裁誕生前には、一時1.3ドル割れ寸前まで下落していました。ギリシャだけにとどまらない欧州全体の債務危機なら、欧州統一通貨のユーロは買えない、というか買えるわけがないだろうといったムードの中で、「ECB・ドラギ丸」は発進となったのです。
さて、欧州債務危機は、翌2012年になると、イタリアから、さらにスペインに拡大しました(変な話ですが、この頃は「サッカーの強い国」の欧州債務危機のようになっていたんですね)。とりあえず、イタリア10年債利回りの上昇は7%超で一服したものの、今度はスペインの10年債利回りが7%を超える(債券価格は下落)といった具合で、「欧州の債務問題はギリシャだけのことではない。欧州全体の問題ならユーロなんてとても買えない」となっていました。
しかしなぜ債務危機が他の欧州諸国(ギリシャは前に述べたように実質的に「国家の粉飾決算」ですから弁解の余地もなさそうですが)に拡大したのでしょうか?
それには、やはり2008年のリーマン・ショックで、世界経済が急減速した影響があったのでしょう。とくに欧州では、金融政策こそ、ECBで統一されたものの、財政政策はそれぞれの国が引き続き主管するといった中途半端なシステムにおいて、そんな世界的な景気の急悪化による矛盾が、最も露呈しやすかったのでしょう。
このように後から振り返って解説するのは、もう結果が出ているのだから、自信満々に何とでも言えそうな気がします。でも、渦中の感覚は全く違うと思うんです。
欧州債務危機が起こっているのは、欧州の中途半端な経済政策といった構造問題が一因だ。そうであれば、一時凌ぎはともかく、抜本的な解決は難しい―――。そんな、ある意味では欧州債務問題で「絶望感」が世界的に広がる中で、2012年7月のドラギ総裁の記者会見は始まったのです。