FXの大相場の数々を目撃してきたマネックス証券、マネックス・ユニバーシティ FX学長の吉田恒氏がお届けする「そうだったのか! FX大相場の真実」。為替相場分析の専門家がFXの歴史を分かりやすく謎解きます。今回は「黒田神話の光と影」について紹介します。
アベノミクス、安倍政権の経済政策だけでそれが実現したかはいろんな意見も出そうですが、その政策が推進される中で大幅な株高と円安が起こったことは事実でした。それに対する影響力を考えた場合、「3本の矢」という経済政策がありましたが、大幅な株高・円安なので、その中でもやはり「大胆な金融政策」を主導した黒田総裁の存在感は大きかったでしょう。
こんな話がありました。2013年夏、まさに黒田緩和(パート1)を受けて株高・円安が加速していた当時、黒田総裁が財務省時代の仲間と新橋か銀座かで食事し店を出たところ、「あーっ、黒田さんだ!!」と、若い女性達から歓声が上がったそうです。要するに、当時「株高・円安」をもたらしたとされるアベノミクスの「真の主役」、黒田総裁は国民的スターのようになっていたんですね。
ところでそれは、2013年4月、「黒田バズーカ」で黒田総裁が世界の金融市場に、それこそ衝撃的なデビューを果たした直後のことでした。この2013年4月の「黒田バズーカ1」を含めて、黒田総裁の政策が、世界の金融市場に衝撃を与えたのは、前回も少し述べたように3回だったのではないでしょうか。ただ、2回目以降は、実は黒田総裁の本心としては、1回目ほど「会心」というほどではない、むしろ複雑な気持ちがあったかもしれません。
「バズーカ2」以降の黒田総裁は複雑な気持ち!?
世界の金融市場の度肝を抜いた「黒田サプライズ」の2回目は、やはり2014年10月末の追加緩和でしょう。金融市場の意表をついた日銀の追加緩和は、円相場的には2013年4月の「黒田バズーカ1」とほぼ同じように、その日のうちに3円以上の円安(米ドル高)、そして1カ月で10円以上の円安(米ドル高)となるきっかけとなりました。
こんなふうに「同じように」とするのは語弊があるかもしれません。そもそも2013 年4月は、黒田総裁はデビューしたばかりで何をやるかはわからないため、逆に言うと意表をつく、「サプライズ」もやりやすかったかもしれません。それに対して、マーケットも2度目は身構えるでしょうから、その中で再び意表をつくのは難しくなっていたでしょう。
「クロダは何をやるかわからない油断できない男」として、世界のマーケットが身構える、ある意味では衆人環視の中でも意表を突き、「黒田バズーカ1」とほとんど同じレベルの凄まじい円安インパクトをもたらしたのですから、それは「黒田バズーカ1」以上の会心の出来といえたかもしれません。
ちなみにこの日、日銀の金融政策決定会合が開かれた2014年10月31日の米ドル/円は109円台前半で取引スタートとなりました。「いくらクロダでも今日は何もないだろう」として、一旦米ドル/円も109円を割れそうになりました。
ところが、普通なら日本時間の昼過ぎに会合の結果が発表されるところそれがない。その辺からマーケットも、「ひょっとしたらまた黒田サプライズ!?」として、日本の追加緩和の織り込みで円安、株高が急ピッチで動き出しました。そして、本当に「黒田サプライズ2」になったことを見極める中で、米ドル/円はその日のうちに109円から112円を超えるまでの大幅な円安(米ドル高)となったのです。
こんなふうに、黒田総裁は、ある意味ではこの世で最も海千山千の人達が集う金融マーケットを、一度ばかりか二度も「出し抜く」形となり、為替も株も大きく動かした結果となりました。さぞや本人もご満悦かと思うところですが、実はそうでもなかったようなのです。