リーマン・ショックで話題となった「カウンターパーティ・リスク」とは?

もう、"今更"の感もあるが、米投資銀行のリーマン・ブラザーズが150年の歴史に幕を下ろした。その影響については、すでに多くのメディアが報じている通り。今、ここで、それをなぞるつもりはない。あくまでもFXへの影響ということで説明していこう。

大きな金融問題が浮上するたびに、新しい金融専門用語がお茶の間の話題をさらう。日本長期信用銀行など大手銀行が破たんした時は「ハゲタカ」。日本の金融不安が高まってきた時は「ジャパン・プレミアム」、ライブドアがニッポン放送株を買い占めた時は「M&A」や「ホワイトナイト」といった具合に、だ。

さて、今回話題になったのは「カウンターパーティ・リスク」である。

カウンターパーティとは、簡単に言えば、取引相手のことを指している。たとえば、A銀行、B銀行、C銀行があったとしよう。B銀行は、C銀行に対して債務を背負っている半面、A銀行の債券を持っていたとする。B銀行としては、A銀行から返してもらったお金でC銀行への支払いを済ませたいと考えていた。

ところが、ある事情からA銀行が破たんしてしまい、B銀行はその影響を受けて資金繰りが悪化したとする。そのままB銀行が破たんしてしまうと、C銀行も大きな影響を受ける。C銀行にすれば、B銀行が破たんして債権が回収できなくなってしまうというリスクを背負っていることになる。

このように、取引相手の信用喪失によって自身の債権回収などに支障を来すことを、カウンターパーティ・リスクという。

リーマン・ブラザーズは、日本のFX社が顧客から受けた注文のカバー先に指定されていた。かなりの数のFX会社が、リーマン・ブラザーズをカバー先に指定していたはずだ。

たとえば顧客から外貨の売り注文を受けた場合、このFX会社は外貨の買いポジションを持つことになる。外貨を持っているのだから、円高が進むと持っているポジションに為替差損が生じ、業績の悪化につながる。 そういうことで、仮に顧客から外貨の売り注文を受けたら、同時に他の銀行などに、今持っている外貨を売ることによって、ポジションを相殺する。これがカバー取引と呼ばれるもので、カバー取引の注文を出す先のことを、カバー先という。

カバー取引を行うために、FX会社は一定額の証拠金を、カバー先に預託する。不幸にしてカバー先が破たんしたら、証拠金が戻って来なくなる。もちろん、それはFX会社とカバー先との間で行われる取引なので、顧客が直接影響を受けるわけではないが、FX会社の財務状況が脆弱で、カバー先の破たんリスクを吸収し切れなかった場合は、残念ながらそのFX会社も破たんに追い込まれる恐れが高まってくる。これがFX会社のカウンターパーティ・リスクだ。

「カウンターパーティ・リスク」に巻き込まれないために、今最低限やっておくべきこと

このような事態に巻き込まれるのは、あまりにもバカらしいので、まずはFX会社を選ぶ際に、カウンターパーティがどこかをチェックする必要がある。といっても、個人レベルでカウンターパーティのリスクを判断するのは、非常に難しい。

今、最低限やっておくべきことは、出来るだけ多くのカバー先を持っているFX会社と取引するということくらいだろうか。そうすれば、カバー先の1社が破たんしたとしても、特定社と過度な取引をしてさえいなければ、信用リスクを最小限度に抑えられるかも知れない。もちろん、たとえカバー先が1社だけであったとしても、非常に信用力が高いと思われている優良な金融機関であれば、特に問題はない。

その見極めが難しいところだが、たとえば格付け会社のホームページなどにアクセスして、カバー先の信用リスクがどのくらいなのかをチェックすることはできる。大事なお金を預けるのだから、そのくらいの労は厭わない方が良いだろう。

JOYnt代表 鈴木雅光氏プロフィール

主な略歴 : 1989年4月 大学卒業後、岡三証券株式会社入社。支店営業を担当。 1991年4月 同社を退社し、公社債新聞社入社。投資信託、株式、転換社債、起債関係の取材に従事。 1992年6月 同社を退社し、金融データシステム入社。投資信託のデータベースを活用した雑誌への寄稿、単行本執筆、テレビ解説を中心に活動。2004年9月 同社を退社し、JOYntを設立。雑誌への寄稿や単行本執筆のほか、各種プロデュース業を展開。