ここ1~2年ほど、FXは低マージン・低スプレッドの流れを受けて、20銭、30銭という狭い利幅を狙って、200倍、400倍ものハイレバレッジをかけて超短期売買を繰り返す「スキャルピング」が主流だった。
当然、これだけのレバレッジをかけてトレードすることになると、常にパソコン画面の前に張り付き状態になる。それが楽しいと思える投資家であれば、それでも良いが、一度、極端な方向に振れれば、その後、もう一方の極端な方向に振れるのも、世の常だ。パソコンの前に張り付き状態で超短期売買を繰り返すことに嫌気が差した投資家が、次のトレード手法として注目しているのが、自動売買である。
自動売買は、文字通り、自分がパソコンの前に張り付いている必要がない。自ら手を下す(判断を下す)部分といえば、自分に代わって売買をしてくれるシグナル・プロバイダーを選ぶことくらいだ。
自動売買について簡単に説明しておこう。大きく分けて、2つのタイプがある。
ひとつは、システムトレードに自動売買機能をつけたタイプ。テクニカル分析などを駆使して売買シグナルを出し、それにそって自動売買をしてくれる。FXCMが提供している「らくちんFX」などは、このタイプだ。
もうひとつは、世界中の裁量トレーダーを選んで、その人たちの売買が自分の口座に反映されるようにした「裁量型」ともいうべきものだ。前者と何が違うのかというと、前者はあくまでもシグナルに基づいてシステマティックに売買が繰り返されるシステムトレード型だが、裁量型の場合、裁量トレーダーがシグナル・プロバイダーとして登録されており、それを選ぶという形になる。簡単に言えば、システムトレードで自動売買をするか、裁量トレーダーで自動売買をするかという違いだ。裁量型には、Zuluトレードやトレードメッセンジャーなどがある。
何を、どう選べば良いのか。実はこの点が非常に悩ましい。確かに、両者とも過去のトラッキングレコードなどを見られるようになってはいるものの、やはりシステムの内容をしっかり把握しておかないと、予想以上に損失を被るリスクがある。自動売買といっても、運用対象はあくまでもFXであり、FXそのものが持っているリスクまで軽減してくれるわけではないからだ。
ただ、参考値がないこともない。たとえばZuluトレードの場合、シグナル・プロバイダーの人気ランキングが表示されている。自動売買を利用している投資家は、自分が選んだシグナル・プロバイダーの運用成績が悪いと、すぐに他のシグナル・プロバイダーに乗り換えていくというケースが多いため、安定的に高い人気を得ているシグナル・プロバイダーは、それだけ安定的なトラッキングレコードを維持できている可能性が高いということになる。もちろん、それでも昨年のリーマン・ショック時のように、マーケットが急変した場合などは、その動きに付いていけず、結果的に損失を大きく膨らませてしまうケースも想定されるが、そうでない限り、人気の高いシグナル・プロバイダーであれば、ある程度、安定的にリターンを上げてくれる可能性が高いと判断することはできそうだ。
あるいは、過去のトラッキングレコードを見て、どの程度、ダウンサイドリスクがあるのかを把握する。最大で、どの程度のドローダウンが生じているのかをチェックし、自分が負えるリスクの範囲内で、シグナル・プロバイダーを選択する。
複数のシグナル・プロバイダーに分散するのも、ひとつの方法だ。一方のシグナル・プロバイダーの運用成績が悪かったとしても、もう一方が良ければ、リスクは相殺される。さらに、一定期間の運用で、成果が上がりにくいシグナル・プロバイダーについては、早期に入れ替えることも考えたほうが良い。
やはり、小まめなメンテナンスは必要ということだ。自動売買だからといって、すべてをシグナル・プロバイダー任せにしないこと。結局、投資は自分で手をかけた分だけ、成功する可能性を高めることができるのだから。
執筆者紹介 : 鈴木雅光氏(JOYnt代表)
主な略歴 : 1989年4月 大学卒業後、岡三証券株式会社入社。支店営業を担当。 1991年4月 同社を退社し、公社債新聞社入社。投資信託、株式、転換社債、起債関係の取材に従事。 1992年6月 同社を退社し、金融データシステム入社。投資信託のデータベースを活用した雑誌への寄稿、単行本執筆、テレビ解説を中心に活動。2004年9月 同社を退社し、JOYntを設立。雑誌への寄稿や単行本執筆のほか、各種プロデュース業を展開。