海外FXをご存じだろうか。そもそもFXは、日本が発祥の投資商品ではない。米国をはじめとする海外で人気を集め、改正外為法の施行によって、98年から日本でも本格導入されたものだ。

つまり、日本以外の国にも、FXを取り扱っている会社はたくさんある。

もちろん、本社は海外にある。一部、外国資本のFX会社が、日本法人を作って参入するケースもあるが、本稿で取り上げる海外FXとは、日本人が海外のFX会社に口座を開設して取引するというものだ。たとえば、AVAFXやFXDD、MIG、GCIといったところが、海外FXの代表的なところだろう。

当然、日本のFX会社も、海外FX会社の存在には気がついており、一部の大手FX会社などでは、日本の個人投資家の資金が海外FX会社に流出しないように、金融当局などを抱き込んで、規制の網をかけようとして必死になっているという噂も耳にする。

ただ、日本のFX会社が、海外FX会社に資金が流出することを食い止めようとして、必死になればなるほど、「どうしてそんなに必死になるの?」という疑問が生じてくる。

そもそも日本人は、海外投資に対してはかなり臆病だ。ここ数年、外国債券に投資するファンドが人気を集めていたが、これも定期的に分配金が得られるというメリットが注目されたこと、外国債券に投資するとはいっても、運用会社や販売金融機関は日本国内にあるということの安心感があったからこそ、人気が加速したという事情がある。海外FXのように、本社が海外にあり、海外に送金しなければならないということになると、「本当に大丈夫なの?」という気持ちが先に立ち、なかなか実際の取引に踏み切ることができないというのが、おそらく日本のFX投資家が普通に抱く感情だろう。

そうであるにも関わらず、必死になって海外FXへの資金流出を食い止めようというアクションを見せる以上、海外FXには、日本のFXにはないメリットがあると勘繰られても仕方がない。

実際、海外FXを利用するメリットはある。たとえば、今年の夏から予定されているレバレッジ規制とは無縁であること。いくら日本の金融当局が強い権限を持っているとしても、それはあくまでも日本国内のFX会社に対してだけのことで、海外に本拠地を持つFX会社にまで規制の手を伸ばすことはできない。実際にレバレッジ規制がスタートした後でも、100倍、200倍といったレバレッジで取引することが可能だ。

日本の金融当局も、海外FXの存在には気が付いており、金融商品販売法を盾にして、規制をかけようとはしているようだが、相手が海外だけに、どうしても決め手にかけてしまう。恐らく、「1年後に50倍、2年後からは25倍」というレバレッジ規制が現実化したら、いわゆる「レバレッジ・ジャンキー」になっている、一部の日本人FXトレーダーは、海外に逃げ道を求めることになるだろう。

とはいえ、海外FXには注意すべき点も多い。

まず、本当にそのFX会社が存在しているのかどうかという点。海外FXという以上は、本拠地が海外になる。個人が、そのFX会社の存在を確認しようとしても、なかなか難しい。なかには、海外FX業者を騙っているだけのところもあるかも知れないのだ。預けた証拠金が戻って来なくなるリスクは、頭に入れておいた方が良いだろう。

仮に、まともな業者だったとしても、何かトラブルがあった場合、それを解決するためには、自力で何とかしなければならない。日本語が分かるスタッフがいなかったら、トラブル解決には、かなりの困難がつきまとう。

税金の問題もある。今、国内FXについては、基本的にすべて支払調書が税当局にディスクローズされているため、確定申告を忘れると、後で追徴課税される。海外FXの場合も、もちろん取引で発生した利益については、きちっと確定申告する必要があるが、国内FXに比べると、税当局もフォローし切れない部分があるので、なかには申告し忘れてしまうケースも生じてくる。何年も申告しないまま、ある日突然、税当局に踏み込まれたら、過去にさかのぼって、莫大な追徴課税を課せられる恐れもある。したがって、取引によって生じた利益の申告は、忘れないようにしなければならない。

いずれにしても、海外FXの最大の問題は、まともな業者であるかどうかという点に尽きる。もし、海外FXでトレードをするのであれば、まずは少額資金で取引を始めること。そして、何回か出金要請を行い、きちっと自分の口座に現金が振り込まれるかどうかを確認した後、証拠金の額を増やしていった方が良い。いきなり大金を預け、そのまま持ち逃げされたから、元も子もない。くれぐれも慎重に対応するべきだろう。

執筆者紹介 : 鈴木雅光氏(JOYnt代表)

主な略歴 : 1989年4月 大学卒業後、岡三証券株式会社入社。支店営業を担当。 1991年4月 同社を退社し、公社債新聞社入社。投資信託、株式、転換社債、起債関係の取材に従事。 1992年6月 同社を退社し、金融データシステム入社。投資信託のデータベースを活用した雑誌への寄稿、単行本執筆、テレビ解説を中心に活動。2004年9月 同社を退社し、JOYntを設立。雑誌への寄稿や単行本執筆のほか、各種プロデュース業を展開。