大阪証券取引所がFXのマーケットを7月21日より立ち上げることになった。取引所FXとしては、すでに東京金融先物取引所の「くりっく365」がある。これまで、取引所FXはくりっく365だけだったが、ここに大証が参入することによって、取引所間の競争も激しくなるというところだろうか。
これから取引所FXをやってみようと考えている投資家にとっては、どちらを選べば良いのかという点に、興味が絞られてくるところだろう。
税制面のメリットについては、くりっく365も大証FXも同じ。キャピタルゲインとスワップポイントについては、ともに20%の申告分離課税になる。これは、店頭FXに比べると、格段に有利だ。店頭FXの場合、FXの取引で得た利益は、給与所得と合算したうえで、総合課税される。
しかも総合課税の場合は、収入が増えるほど税率負担が重くなる累進課税制度が採られている。仮に、給与所得と併せた収益が年間1,800万円を超えたら、総合課税の税率は何と50%だ。それが、取引所FXなら、FXで得た利益のうち20%だけを収めれば良いのだから、これはもう有利・不利について比較するまでもない。
そのうえ税制面については、日経225miniなどの先物・オプション取引との損益通算が可能であることや、最長3年間、損失額の繰越控除が可能であることなどのメリットもある。これらはいずれも、店頭FXでは認められていない税制面の恩典だ。
さて、税制面のメリットという点では、くりっく365も大証FXも同じだが、具体的に両者の間には、どのような違いがあるのだろうか。
大証FXが目下、一番の売り物にしているのが、オークション方式で取引を行うとともに、マーケットメーカー制度を導入することによって、市場の流動性を確保している点だ。そして、売り気配と買い気配をそれぞれ8本ずつ開示する「板情報」を見ながら取引できるという点も、くりっく365にはない特徴となっている。 店頭FXの場合、あくまでも投資家との相対取引になるため、価格提示と約定の部分に不透明さが残るのは否めない。中には、勝手にレートをずらして、事前に提示しているスプレッド以上の為替売買益(マリー益)を取ろうとするFX会社や、顧客のポジション状況が丸見えであることを良いことに、あと少しでストップロスのラインに引っかかりそうなポジションがあった場合、そのわずかなレートをずらしてストップロスにしてしまう「ストップロス狩り」といった、いささか"お行儀の悪い行為"も散見される。もちろん、透明性に力を入れるFX会社があることも事実だが、大証FXのように板情報を開示していれば、この手の不透明さは無くなる。
ただし、くりっく365にも優れた点はある。たとえば、マーケットメーカーの数が多いという点だ。現在、くりっく365でマーケットメイクを行っている金融機関は、ゴールドマン・サックス証券 / ドイチェ・バンク・アクチエンゲゼルシヤフト(ドイツ銀行) / ドレスナー・クラインオート(ジャパン)リミテッド / 野村證券 / 三菱東京UFJ銀行 / ユービーエス・エイ・ジー(銀行)の計6金融機関。これに対して大証FXのマーケットメーカーは、6月19日に発表されたところだと、JPモルガン・チェース銀行 / マネーパートナーズの2社だ。
もちろん大証FXも、これからマーケットメーカーを増やしていくのだろうが、現時点における流動性確保の点では、くりっく365に分がある。
くりっく365と大証FX。同じ取引所FXのなかで、どちらを選択するか。ここは思案のしどころだが、大証FXの取引に参加しているFX業者は、まだスタートしたばかりということもあり、くりっく365よりも少ない。大証FXで取引したくとも、窓口となるFX会社の数が少なければ、どうしても顧客はつきにくくなる。目下、大証FXにとっての課題は、マーケットメーカーと取引参加者の数を増やすことだろう。
「それにしても……」と思うのは、どうも取引所FXの盛り上がり方が今ひとつであることだ。税制面で見ても、取引所FXが有利なのは一目瞭然なのだが、預かり高の推移を見ると、伸びが見られない。くりっく365の口座数は、2008年3月から2009年3月までの1年間で、7万2,032口座から13万9,458口座と倍増しているが、預かり高は848億5,000万円から893億7,200万円と微増にとどまっている。これはくりっく365に参加している16社合計の数字だ。
ちなみに店頭FXで大手の外為どっとコムの場合、2009年3月時点の口座数が37万8,035口座で、預かり高が841億4,200万円。口座数ではくりっく365をはるかに上回り、預かり高では拮抗している。たった1社に、16社が束になってもかなわない。どうも投資家の窓口となるFX会社の方に、あまり真剣に取引所FXを取り扱う意欲がないのではないかと思わざるを得ない。
店頭FXに比べて有利な部分を数多く持ち合わせているのだから、取引所側は、取引所FXを活性化させるための方策を真剣に考えるべきだろう。取引所FXを広めることは、必ず投資家利便につながるはずなのだから。
執筆者紹介 : 鈴木雅光氏(JOYnt代表)
主な略歴 : 1989年4月 大学卒業後、岡三証券株式会社入社。支店営業を担当。 1991年4月 同社を退社し、公社債新聞社入社。投資信託、株式、転換社債、起債関係の取材に従事。 1992年6月 同社を退社し、金融データシステム入社。投資信託のデータベースを活用した雑誌への寄稿、単行本執筆、テレビ解説を中心に活動。2004年9月 同社を退社し、JOYntを設立。雑誌への寄稿や単行本執筆のほか、各種プロデュース業を展開。