かねてから問題になっていたFXのレバレッジ規制が、25倍を上限にほぼ確定する見通しだ。
4月下旬、新聞報道でレバレッジ規制が、具体的な数字を挙げて浮上した時は、「20倍から30倍」と報じられた。一時は、「まさかそこまではやらないだろう」というムードもあり、「100倍が落とし所ではないか」などとも言われていたが、大方の期待を裏切る厳しい数字となった。
さまざまな紆余曲折を経ての方針だが、業界に与えるインパクトは、極めて強いものになるだろう。
現在、レバレッジの上限はFX会社によってバラバラで、なかには600倍を超えるレバレッジを提供しているところもある。もちろん、だからといって600倍のレバレッジでトレードをしている投資家は、ごくごく稀だ。恐らく、100倍超でトレードをしている投資家も、全体から見ればほんの一部に過ぎないだろう。その意味では、25倍を上限にしたとしても、そう大きな影響は出ないと見る向きもある。
しかし、その見方は、おそらく楽観的に過ぎるのではないだろうか。
まず、投資家に与える心理的な影響。実際に100倍、200倍というレバレッジでトレードをする投資家はごく一部だとしても、これまで認められていた高いレバレッジが規制され、しかも25倍という、これまでに比べて20分の1程度まで抑えつけられることになれば、どうしてもしらけてしまう。
FXの良さは、レバレッジを活用することによって、少額資金でも大きなトレードが出来ることにあった。それは、時としてギャンブル的なトレードにつながる面もあったが、一方で、投資家の利便性を高める効果もあった。マーケットの動きを見ていて、「ここぞ」という時には、ポジションを大きく取ることができたのは、レバレッジの効果があったからだ。仮に最大レバレッジが200倍であれば、10万円の証拠金で2000万円の取引ができる。しかし、レバレッジが25倍で規制されたら、同じ額のポジションを取ろうした場合、80万円の証拠金が必要になる。
ちなみに、主要なFX会社の顧客1人あたりの平均的な預かり証拠金額は、20~30万円前後と言われている。このような平均的な投資家は、今後、「投機」のチャンスが到来したとしても、思い切ったポジションが取れなくなるということだ。投資は決してギャンブルではないが、ギャンブル性を失ったら、投資の魅力は半減する。投資家離れは大いに懸念される。
FX会社にとっては、投資家離れと収益の減少によって、経営面に大きなダメージが及ぶ。レバレッジ規制が行われれば、当然、投資家のポジションは縮小せざるを得ない。取引金額が小さくなり、手数料やスプレッドなどの収益が目減りする。そのうえ、信託保全の徹底化にともないシステム投資の必要性も生じてくる。収入が目減りする一方で支出が増えるのだから、FX会社の収益構造は大きく変わらざるを得ない。想像の域を脱しないが、おそらく、経営を継続できないFX会社が、続出するのではないか。
もし、これ以上の経営継続が困難ということになったら、投資家の持っているポジションは、強制決済される。結果、含み損は強制的に実現損となる。信託保全に切り替わる前に破たんしたら、預けてある証拠金の安全性すら保証されないだろう。
ところで、レバレッジ25倍というのは、どうやらドル円についてのみだということだ。なぜ25倍なのかということの数値的根拠については、2007年から現在にかけての、ドル円のボラティリティをベースにしたものだという。もしそれが本当であれば、この期間中、間違いなくドル円よりもボラティリティが高かった豪ドルやニュージーランド・ドル、あるいは南ア・ランドといったマイナー通貨については、さらにレバレッジが低めに抑えつけられる公算が高い。
レバレッジ規制を強化したとたん、大半のFX会社が撤退してしまったという香港の実例を、規制当局は分かっているのだろうか。それとも、「FXなどは無くなってしまっても良い」と考えているのだろうか。確かに、一部のFX会社のお行儀が悪かったのは事実だが、あまりにも急な規制強化は、決して市場の育成にはつながらない。
レバレッジ規制をする前に、取引を健全化するための方法は、他にもあるのではないだろうか。再考を促したい。
執筆者紹介 : 鈴木雅光氏(JOYnt代表)
主な略歴 : 1989年4月 大学卒業後、岡三証券株式会社入社。支店営業を担当。 1991年4月 同社を退社し、公社債新聞社入社。投資信託、株式、転換社債、起債関係の取材に従事。 1992年6月 同社を退社し、金融データシステム入社。投資信託のデータベースを活用した雑誌への寄稿、単行本執筆、テレビ解説を中心に活動。2004年9月 同社を退社し、JOYntを設立。雑誌への寄稿や単行本執筆のほか、各種プロデュース業を展開。