FP(ファイナンシャル・プランナー)にどんな相談ができるのか、過去の実例を紹介します。今回の相談は「もうすぐ子育ても終わり、すると老後資金が心配に……。どの程度準備すべきでしょうか」。
■今回の相談
「もうすぐ子育ても終わり、すると老後資金が心配に……。どの程度準備すべきでしょうか」
相談者プロフィール
K・Iさん
宮城県在住/女性/46歳/パート/持ち家一戸建て/家族は、夫52歳、長男19歳、次男17歳の4人。夫は会社員、長男は私立大学2年、次男は私立高校3年。
■収入
給与・夫(手取り)35万8,000円、給与・妻(手取り)6万8,000円、ボーナス・夫(年間手取り)115万円 月額合計 42万6,000円
■月間支出
住宅ローン9万5,000円、食費6万円、水道光熱費1万5,000円、教育費(次男分)5万2,000円、長男への仕送り7万円、車両費(駐車場代、ガソリン代、保険料など)1万8,000円(2台分)、通信費(携帯・スマホ代、プロバイダー料金、有料テレビ代など)2万3,000円、家族の小遣い5万5,000円、交際費・娯楽費1万5,000円、保険料2万3,000円、雑費1万2,000円 合計43万8,000円
■貯蓄/運用
普通預金15万円、定期預金395万円(ボーナスから年間70万円積立)、投資信託80万円(ボーナスから年間10万~20万円投資)、株式35万円 合計525万円
相談者: 「長男が来年大学3年、次男も受験がうまくいけば大学入学となりますから、あと数年で落ち着くところまで来ました。すると、心配になるのが私たち夫婦の老後資金です。週刊誌で「老後資金は1億円必要!!」なんて見出しを目にすると、何だか目の前が真っ暗になります。かといって、周囲の人に老後資金はどうしてますかとは、なかなか聞けません……。
しかも、家計は、以前なら毎月6万~7万円貯蓄できていたのに、ここ数年は赤字になるか、ほぼトントンという月がほとんど。住宅ローンの支払いも60歳まで続きます。
今後、老後資金をどう準備していけばいいのか、アドバイスをお願いします」
いくら必要かは断定できないのが老後資金
FP: 「ご長男は、実家を離れているのですね」
相談者: 「はい。てっきり、地元の国立大に行くと思っていたのに、アテが外れました(笑)。現在、東京の私大文系に通っています。本人はコンビニでバイトもしていますが、親としては、家賃分だけでも負担してあげたいので、仕送りを続けています」
FP: 「次男の方は他県の大学に進学することは……」
相談者: 「自宅から通える大学しか受験しないと本人は言っています」
FP: 「家計は、ここ数年が教育費のピークなので、貯蓄できないのも仕方がないと考えるべき。ボーナスでの貯蓄額が大きいですから、毎月の家計管理は赤字にならないことを目標にすればいいでしょう。ご主人の退職金の金額はどのくらいかご存知ですか?」
相談者: 「平均的な額は出ると言っていました。ただ、退職金も大事ですが、私としては体が動くうちは働いてほしいんです」
FP: 「それはいいことです。老後資金を準備する上で、定年を過ぎても働くということはとても有効なことなのです」
相談者: 「あっ、いえ、無趣味の夫は定年後、ほぼずっと家でダラダラするはず。そうなると、毎日、昼ご飯の用意をしなくてはいけないので、単に気が重いだけなんです」
FP: 「そういうことでしたか(笑)。ともあれ、老後資金がどの程度必要かは、誰もが関心のあるところ。しかし、実際には個々に状況が異なり、残念ながら明確にこのくらいとは言えません。具体的には、公的年金や退職金、預貯金などの額、持ち家のあるなしとも深く関わってきます。健康に過ごせるかどうかも大きな要素です。では、そのような〝つかみどころのない〟老後資金をどう準備すべきか、考えてみましょう」
老後の暮らしは「毎月4万~5万円台の赤字」
FP: 「老後資金は、教育資金や住宅資金と違い、必要な額が判断しにくいという特徴があります。しかし、老後に対してただ漠然とした不安を抱いているだけでは、悩みの解決にはなりません。そこで、ひとつの目安として、実際に老後を過ごす世帯の収支を見てみましょう。
総務省統計局の「家計調査」によると、世帯主が60歳以上の夫婦世帯における毎月の支出は、税・社会保険料なども加えて約26万円。対して収入は、公的年金などの社会保障給付にその他収入を加えて約21万円。結果、毎月約5万円の赤字となります。
毎年行われているこの調査、ここ10年間は赤字額が4万~5万円台の範囲内で推移しています。したがって、あくまでも平均値ではありますが、老後が身近になってきた50代の夫婦にとっては、それなりに現実味のある金額と言えるでしょう。仮に老後期間が25年、平均月5万円赤字だとすれば、不足額はトータル1,500万円。つまり、それだけ自分で用意できれば、最小限の老後資金はカバーできるということになります。
では、K・Iさんの家計では、どのくらい老後資金が準備できるでしょうか。まず、今後の教育費ですが、次男の方も私立文系とすると、4年間の平均額は400万円弱。ご長男はあと2年在学しますから、合計600万円ほど。現在の定期預金と毎年のボーナスの積立3年分で捻出できる額となります。
また、来年からは次男の方の高校の費用が、3年後にはご長男の仕送りがなくなり、それ以降の貯蓄ペースはグッと上がります。大きな支出がなければ、ご主人が60歳までに貯蓄できる額は1,000万~1,200万円。さらに、平均的な額の退職金が支給されるというのであれば、先にあげた額はクリアできるはずです。ご自身の老後の収入や支出がより具体的になったら、試算をし直してみましょう。
なお、将来の公的年金に関しては支給額や支給時期、介護の問題など、不確定要素があることは否定できません。したがって、ご主人だけでなく、K・Iさんもできるだけパートを続け、多少でも収入を確保することが大切でしょう」
子どもの負担にならず安心
相談者: 「教育費はできるだけ親が出してあげたいという思いでこれまで頑張ってきましたが、それで老後資金がなくなってしまえば、結果的に子どもに心配をかけてしまいます。
それは何とか避けられそうということでひと安心しています。ただ、楽観視せず、夫が長く働けるよう健康に気を配りながら、頑張っていくつもりです」
著者プロフィール: 日本FP協会
ファイナンシャル・プランニングの普及とその担い手であるFPの養成・認証を通じて、社会教育の推進を図る日本最大級のNPO法人(特定非営利活動法人)。くらしとお金に関する無料セミナーや相談会の開催、各世代・ライフステージに合わせた冊子の提供等、生活者一人ひとりのより豊かで実り多い明日に貢献することを目指している。
■日本FP協会
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