上司の古臭い話に愛想笑顔を浮かべ、やる気のない後輩に励ましの言葉をかけ、中堅になるにつれ面倒なことが増えてきたと感じる会社生活。プライベートでは友人からの連絡と言えば結婚か出産の話で、実家に帰ると親からは老後の心配話。そんなどこにでもいるアラサー女子の日常を送る筆者が出張で「世界一幸せな国」フィンランドに行くことに。アラサー女子にはたまらない、たくさんの"やさしさ"があったので紹介しよう。
第1回は、フィンランドの素敵な制度や、やさしい考え方について、育休パパから大臣までさまざまな立場の人に話を聞いてきた。
アラサー女子の不安がどこから来るのか。普段の友人との会話を思い浮かべてみると、話題は大きく2つに分けられることに気づいた。それは「子育て(家庭)」と「キャリア」の両立。会話はほぼこれで構成されていると言っても過言ではないだろう。そんなアラサー女子たちの不安の種をやさしくぬぐってくれる社会がフィンランドに広がっていた。
「子育て」制度の充実度がすごい
フィンランドは妊婦検診が無料なのはもちろん、プレスクール(就学前教育)から高等教育までの教育費も無料など、子育てに関するさまざまな制度が整えられている。
「育児パッケージ」もそのひとつ。これは出産に際し、KELA(フィンランド社会保険庁事務所)から支給される母親手当で、育児に必要な用品が入った箱が、所得に関係なく国から無料で提供されるというもの。育児パッケージの中にはベビーケアアイテムやベビー服、親が使用するアイテムなど約60点も入っているのだ。ちなみに、送られてくる箱は赤ちゃんの最初のベッドとしても使えるほか、箱のサイズにあわせたマットレスや羽毛布団、ベットリネンも用意されているそうだ。
出産にはお金がかかる。ましてや1人目の出産であれば、何が必要なのかもわからず不安もいっぱいだ。そんな中、国がそれを用意し、無料で提供してくれるのは、なんてありがたい制度だろうか。
この他にも、フィンランドにはさまざまな子育て支援の手当や、産前30~50日からの105勤務日間も取得できる「母親休業」(はじめの56日間は給与の90%、その後70%)、母親か父親、もしくは両者が母親休業終了後~158勤務日間とれる「親休業」(給与の70~75%)など、育休の制度が充実している。
その中で、興味深いのが「父親休業」。これは、54日勤務日間、給与の約70~75%が支払われる父親対象にした育休制度のこと。1日~3週間までは母親休業や母親が親休業を取得中でも利用可能で、残りの36~54日は母親休業や親休業が終了して母親が家にいない場合に取得可能だ。この制度は2011年時点で、はじめの3週間分の取得率が80%と非常に高く、フィンランド男性の育児への参加意欲がうかがえる。
パパの育休や育児参加は当たり前
今回は実際に育休をとっているパパに話を聞くことができた。訪れたのは、フィンランド外務省に勤める36歳の外交官ユハナ・トゥーナネンさん。生後半年の息子と7歳の娘がいる2児のパパ。奥さんは法務省で勤務しているという。
ユハナさんは1人目が生まれた時に奥さんと一緒にとれる3週間の育休を取得。1歳2カ月の時に奥さんは職場復帰し、その後ユハナさんが4カ月間休みをとったという。現在は2人目が生まれ、奥さんの4カ月間の育休取得後、ユハナさんが6カ月間の育休をとっている。
自身の育休歴史を話してくれている間にも、息子をあやし慣れた手つきでミルクをあげるユハナさん。おまけに私の分のコーヒーも淹れてくれた。そのテキパキと家事をこなす姿はまるで繁盛店のコックが次々と料理を提供し客を満足させるよう。完璧なプロの手さばきだった。
1人目の育休の時と今では何か変わったか尋ねると、「7年前は、育休をとるというと周囲から驚かれた」と当時を振り返り、「2人目のときは驚かれることもなく、周りも支援してくれた。ママ友もグループに入れてくれるし、パパ友も大勢いるので寂しいとは思わない。男性の育休取得が浸透してきたのだと思う」と語っていた。
ちなみに、フィンランド航空でアジア・オセアニアエリアの副社長を務めるレフティオクサ・ヨンネさんも育休を取得したひとり。30年前に1人目が生まれた時に6カ月間の育休を取得したという。
さすがのフィンランドでも、30年前に男性が育休をとることは一般的ではなく、周囲からとても驚かれたそうだ。しかし奥さんのキャリアを応援したいと考え、自分が取得することを決めたという。その結果、奥さんは仕事に復帰しキャリアアップ、自分も転職後現在のポストに就き成功を収めている。レフティオクサさんは「奥さんのサポートがしたかったので勇気をふりしぼって言ってよかった」と幸せそうに話していた。
女性のキャリアを実現できる社会
子育てに限らず、夫の協力は自分のキャリアにとっても重要である。自分が仕事に疲れて帰ってきた時、食材を買ってくれていたら、洗濯をしてくれていたら、と思ったことがある方は多いのではないだろうか。「男は仕事、女は家庭」という考えはもう古く、今は女性の社会進出は当たり前の時代である。そういった女性のキャリアの面でもフィンランドはやさしかった。
日本では職場での男女平等についての話題がよく問題視されているが、その点においてもフィンランドは少し進んでいる。例えば、フィンランドの国会は200議席のうち女性が98席とほぼ半分、主要8政党のうち5名が女性党首と、政治世界においても男女のバランスが平等に保たれている。
今回、お話を伺ったハンナ・オヒサロ内務大臣も例外ではない。彼女は決して恵まれた家庭で育ったわけではなく、幼少期を振り返り「親族がサポートしてくれなくても世の中が(周囲の大人や社会制度)がサポートしてくれた」と話した。現在彼女は、内務大臣、国会議員、グリーン党党首、ヘルシンキ市議員の4足のわらじを履き活躍している。
こういったキャリアがつめるのも、フィンランドが機会均等・男女平等の社会を実現しているからではないだろうか。
「世界一幸せな国」の考え方
育休パパに女性大臣……それぞれ立場は違っても、みんな「幸せだ」と目をキラキラ輝かせながら話してくれた。仮に、日本人に「幸せですか?」と尋ねても「私は幸せです」と即答できる人は、きっと少ないだろう。
では、どうしてフィンランド人は誰もが幸せを感じ、「世界一幸せな国」と言われているのか。ヘルシンキ大学で政治哲学を教えているアンティ・カウッピネン教授に聞いてみた。
「フィンランドは、みんなが心地よく生きる為にはどうすればよいかを常に考えます。何かリスクがあったときに、みんなが平等にサポートを受けよう、失業や病気、老後など厳しい環境にある人を社会全体で支えようという考えが広まっているのです。こういった誰も見捨てないという思いが、幸せにつながっていると思います」
なんてやさしい考えだろうか。家族もおらず老後をひとりで生きていけるのかという不安や、子どものお金は親が準備し、育児は母親がするもの、といった考えが一般的な日本とは大違い。フィンランドには社会全体でみんなを支え合おう、父親も育児に参加しようといった考え方が浸透している。これなら、アラサー女子も子育てだけに追われず、キャリアとの両立がはかれそうだ。
今回、多くの方から話を聞いて感じたのは、フィンランドには誰しもが挑戦できる環境づくりのために、みんなで社会を支え合おうという考え方が浸透していること。これは、日々、子育てや家事に追われるアラサー女子にとってはとてもありがたい。職場と家庭の両方でこのやさしい考えが浸透していけば、日本のアラサー女子もより生きやすく、「幸せです」と胸を張って言える人生が送れるかもしれない。