カメラ女子に人気の国といえば、チェコ。なぜ人気なのかはよくわからないのだが、ちょっと暗めの雰囲気で文化の香りただよう感じが、その感性に合うのかもしれない。その首都プラハと、周囲の都市をめぐる中欧3カ国のツアーは、人気である。
という無理めの導入はさておき、今回と次回のテーマはチェコ(正しくは旧チェコスロバキア)の二眼レフカメラだ。
石畳の路地が似合うチェコの二眼レフ
ところでチェコというと、すぐ「プラハの春」とか「ビロード革命」、はたまた「旧社会主義の国だよね」と話す年配の方が多いとは思う。ところが女子に対しては、そこは、我慢して言わないほうが花である。というのは、おおよそ"うらわかき女子"にとって、鉄のカーテンがあった時代は、彼女たち自身が存在していなかったか、ちっちゃな子どもだった時代で、それを持ち出されても困るからである。
おまけに、これは周囲の女子と話して感じていることなのだが、どうも彼女たちにとって、40代後半以上の人間は、だれもかれもがゲバ棒をふるっていた世代と、いっしょくたに認識しているみたいで、つまり、1960年代と80年代に青春を送っていた人々が感覚的に区別できない(というかまったく興味がない)のである。
さて、チェコの二眼レフの話に戻るが、「Flexaret(フレクサレット)」というネーミングのこのカメラは、世界的にも名高いカメラである。クルテクやあじがみ(味紙)のチェコのイメージからは信じられない女子も多いかもしれないが、チェコスロバキアは戦前から軍需産業国だったのだ。チェコの戦車も有名で、フランスの映画『鉄路の闘い』(ルネ・クレマン)のなかで、ドイツ・ナチスの装甲列車から降りて、フランスのレジスタンスを壊滅せしめたのも、チェコの軽戦車であった。
なぜ、わたしがチェコの二眼レフを使っているかというと、このフレクサレットの故郷、チェコのモラビア地域を旅したこともあるが、価格が安いこと。すべての型がとっくの昔(40年以上前だろう)に生産終了して久しいが、赤窓式の二眼レフで1万円以下だし、セルフコッキング、巻き止め機構式のVI型でも1万円ちょっとだ。男性にも人気があるローライよりも手軽だし、トイカメラのニ眼レフより写りがよさそうだ。そこで、最初は赤窓式のフレクサレットIIa型を手に入れ、気に入ったのでさらにVI型をオークションでスロバキアの写真商より入手した。
二眼レフの使い方
フレクサレットVI型の使い方は、書籍『人気ブロガーとプロに学ぶ おしゃれな写真の撮り方手帖』(P132)に載っている。
二眼レフカメラの撮影の仕組みとは、カメラ内下側のフィルム室にブローニーフィルムを入れ、上部のフィルム室にフィルムを巻き取る空の「スプール」を入れて、これに先のブローニフィルムの先を挟み込み、フィルムをコマに合わせて巻き取り、ちょうど間にあるレンズで写していくというもので、どれも共通していると考えてほしい。
フィルムのコマごとにぴったり撮影する仕組みとして、フィルムの裏紙に書いてある数字を赤窓で合わせる方式(フレクサレットIIaなど)と、フィルムを巻き上げると次のコマにぴったりと合わせて止まる「巻き止め機構」方式とがあり、後者の多くに「セミオートマット」方式といわれるものがある。
これは、スプールに裏紙の先端を挟み込んだあと、フィルムのスタートマークとカメラの(スタート)マークが一致するまで巻き上げた後、カメラの裏ぶたを閉め、フィルムカウンターが「1」になるまでさらに巻き上げ、1コマ撮影後、巻き上げノブやレバーを回すと、ちょうど次のコマで止まるのである。フレクサレットVIはこの方式だ。なぜかこの方式を採用したメーカーは「オートマット方式」と呼んでいたようだが、正式のオートマット方式は、スタートマークを合わすこともせずに、単にスプールに裏紙の先端を挟み込むだけで、フィルムの装填がうまくいく形式のことを指すものだけだろう。
フィルムの入れ方
●セミオートマット方式のフレクサレットの場合(写真はVI)
(7)引き出したフィルム(裏紙)の先端を上部の空のスプールの穴に引っ掛け、巻き上げノブを軽く回して、フィルムが巻き上げられるかを確認する |
(8)フィルムのスタートマークをカメラの白い点に合わせる |
(9)裏ぶたを閉じる。するとフィルムカウンターが「0」になっているはず。このときフィルムカウンターの左のダイヤルは、「1」「2」のように数字に合わせておく |
●赤窓式のフレクサレットの場合(写真はIIa)
シャッタースピードと絞りの指定方法
ピントの合わせ方
シャッターを駆動するためのしくみ(シャッターチャージ)の方法にも、いくつかある。手動で行うもの(フレクサレットIIaなど)は、レンズ周縁部にあるレバーを一方向に押すことでシャッターチャージを行う。かなりアナログなので、文化系女子や森ガールにはおすすめな方式である。一呼吸して、のんびりとシャッターレバーを押せばよい。一方、先のセミオートマット方式の多くが採用しているのがセルフコッキング。これは、フィルムを巻き上げると自動的にシャッターがチャージされるもの。すぐにシャッターボタンが押せるようになるので、便利である。
赤窓方式、手動シャッターチャージ方式のフレクサレットIIaは、扱いがラク。軽いし、バッグの中にぽいっと投げ込んでおけばよい。でも、赤窓が見にくいので、裏紙の表示が親切な富士フイルムのブローニーはいいけど、その他のメーカーのフィルムはついついフィルムを先に送ってしまう。また、持っているカメラだとピントグラスが暗いので、日中以外は使いにくい。ということで、最近のお散歩カメラはちょっと重いけどフレクサレットVIになっている。
でも、実は私が持っているフレクサレットVIは欠点がある。シャッターボタンがときどき効かなくなる。そこでレリーズを使って写真を撮る。また、裏ぶたを開けるボタンネジの位置が悪く、ついつい左手で触ってしまう。本来はボタンネジを回して裏ぶたが開かないように固定するのだが、ボタンネジがよく回らない。そこで撮影準備中に裏ぶたが開く事故が多発するという致命的な欠点を持っている(後に、いろいろ掃除して回るようになったので、この問題は解決)。でも、チェコのカメラということでかわいくて、お遊びカメラとして、休日の友となっ ているのだ。
優越感に浸れる二眼レフカメラ
デジカメは便利でいい。記録撮影するにはもってこいだ。でも、二眼レフカメラのいいところは、そんなところを超越したところにある。絞りとシャッタースピードを手動で合わせて、ピントグラスを見ながらピントを合わせる。シャッターチャージを行って(しなくてもいい場合もある)、シャッターを静かに切る。そんなゆったりとした作業が、時代に逆行するというか、ひとり取り残されている感たっぷりで、ここちよい。
さらに、ブローニーフィルムという画面サイズの大きさも気に入っている。特にポジフィルムを透かして見た画面の迫力は、フルサイズのデジタル一眼レフカメラユーザーにも自慢できるところだ。フルサイズといっても「たかが」35mmフィルムの1コマサイズにすぎないからである。
というわけで、二眼レフをかかえてお散歩をしている。レンズの焦点距離が75mmあるため、ぼけ味が利いた写真が撮れるのが新鮮だ。三脚に取り付ければ打ち上げ花火まで撮れたりする。しかし、さすがチェコスロバキアのカメラである。横須賀市にある陸上自衛隊武山駐屯地で開かれた花火大会(武山駐屯地 横須賀西地区納涼花火大会)にもっていくと、1枚目だけシャッターが開いたものの、あとはシャッターボタンを押しても、押しても、シャッターが開かなくなってしまった。
後日現像所からは、1コマ目だけ、自衛隊員がたたく武山太鼓の写真が写り、あとは何も写っていないネガが長巻であがってきたのだ。
ああ、東西冷戦。撃墜されたのか、ヘソを曲げられたのか、西側の陸上自衛隊駐屯地で旧東側の旧チェコスロバキアのカメラを使うから、バチがあたってしまったのである。
『フィルムカメラの撮り方 きほんBOOK』
フィルムで撮る楽しみをクローズアップした本。特に、著者のふんわりやさしく撮るテクニックは真似したいものばかり。「コダック プロフェッショナル ポートラ NC」の作例が満載なので、フィルムカメラ女子必携の本ともいえる。フィルム写真にこだわりをもつ男性にもぜひ読んでほしい。
山本まりこ著、毎日コミュニケーションズ・デジカル編集