Googleの「Google Assistant」やAmazonの「Alexa」に対抗するデジタルアシスタントとして、鳴り物入りで登場した「Cortana」が、このところ存在感を薄めている。Microsoftによるスマートスピーカーが登場せず、Windows 10 Mobileからの撤退でCortanaが活躍できる場が1つ減り、そしてWindows 10でも1月中旬にInsider Previewビルドで検索ボックスからCortanaを分離した。

そうした中、1月後半にMicrosoftが少数のメディア関係者を集めて行ったミーティングにおいて、CEOのSatya Nadella氏がCortanaの位置づけが変わったことを認めた。スマートスピーカー市場でAlexaやGoogle Assistantとシェアを競うことはない。Cortanaはアプリやスキルで充分であると断言した。

  • 1月のプレビュー版(Insider Preview)でWindows 10デバイスの重要なツールである検索ボックスからCortanaを分離。それぞれの機能を目立たせる改善としているが、Cortanaの役割り縮小と見る向きも

Cortanaは負けたのか?

The Vergeが「CortanaをAlexaやGoogle Assistantの競合と見なさなくなったMicrosoft」と報じるなど話題になったのでご存知の方も多いと思う。そうしたニュースのタイトルや、切り取られたNadella氏の発言だけを読むとMicrosoftの敗北宣言のようにも映る。

だが、MicrosoftはCortanaをあきらめたわけではない。デジタルアシスタント普及の第1ラウンドが終了し、そこでポイントを取れなかった反省から、より長期的な視点でデジタルアシスタントに取り組み始めた。「Microsoftの強みを活かせるデジタルアシスタント」を起点に、戦略を大胆に見直した。キーワードは「選択」と「プラットフォーム」である。

「ソフトウエア企業であるという理由だけであらゆる分野に参入しようとして、Microsoftは多くの失敗をしたと私は感じています。TAM (Total Addressable Market: ある製品の最大市場規模)が大きいというのは参入の理由になります。しかし、貢献できる何かユニークなものがなければうまく行きません」(Nadella氏)

参入する分野や市場、開発する製品、開発手法などを選択する際に基準となるのが企業のアイデンティティであり、Nadella氏はそれを「ユニーク」と表現していた。Microsoftの"強み"とも言えるが、もう少し広義であるように思う。現在、Microsoftの強みはビジネスおよびエンタープライズの側にある。その強みを活かせることが、コンシューマ側の選択に影響する。

「コマーシャルに大きな強みを持ちながら、相乗効果を持たせられるところにはコンシューマ側にも足場を築いていますが、参入するカテゴリーについては我々がユニークさを発揮できるか、慎重に見極めなければなりません」(同)。

たとえばXboxはコンシューマ向けの事業だが、Azureによる開発環境や実行基盤がゲーム市場において年々役割を広げており、Microsoftがコンシューマ向けに事業を展開する価値がある。その視点で、スマートスピーカーはMicrosoftがユニークさを発揮できるカテゴリーではないと判断した。

すでに形になっているのが、昨年8月に一般プレビューが始まったCortanaとAmazonのAlexaの相互接続である。AmazonのEchoシリーズのスマートスピーカー/ディスプレイにCortanaのスキルを提供し、Echoデバイスで「Alexa, open Cortana」 というように頼んでCortanaを呼び出してもらって、EchoデバイスでCortanaを利用する。相互接続なので、Windows 10デバイスでCortanaにAlexaを呼び出してもらうことも可能だ。

「Alexaユーザーが呼び出せるようにCortanaを価値のあるスキルにした方が良いのか、それともAlexaと (スマートスピーカー市場で)競争すべきなのか。Microsoft 365ユーザーのために、Cortanaがそうしたスキルになる必要があると判断して前者を選択しました」(同)

  • AmazonのAlexaとの相互接続を実現したMicrosoft、Google Assistantなどスマートスピーカーの他のデジタルアシスタントとも同様の連係を実現する準備があるとしている

使い続ける理由が必要

重要なのは「これからもユーザーがCortanaを使い続ける理由」だ。それがあれば、Alexa経由で人々はCortanaに接続する。逆に、Cortanaを使う理由がなかったら接続に価値はない。

Microsoftは、同社の強みである生産性を向上させるソリューションとして、デジタルアシスタントをデバイスではなくプラットフォーム、つまりMicrosoft 365に統合された存在に変えようとしている。

好例がBuild 2018で披露した「モダンミーティング・デモ」だ。会議に参加する人がミーティング・ルームに入ると、デジタルアシスタントが入室した人を自動認識して挨拶する。会議中も発言者を認識し、発言を分類しながら自動的に文字に起こして議事録を作成。リアルタイムの翻訳も可能だ。またミーティングから出てきたToDoも自動的にメモしてタスク化してくれる。

これらはデジタルアシスタントを導入したからといって実現するソリューションではない。プラットフォームとデジタルアシスタントの統合的なデザインによって可能になる。

それはビジネスの話であって、コンシューマ向けにCortanaの存在感が薄れていることに変わりはないと思うかもしれない。では、このように考えてみたらどうだろう。それほど遠くない将来に、コンシューマ向けのMicrosoft 365が登場する、と。

これからは「アンビエント・コンピューティング」

OutlookやTo-Doといったツールへのデジタルアシスタントの統合は、ビジネスに限らず、広く一般のユーザーの生産性向上にも貢献する。その先に同社はモバイルの次の大きな波として「アンビエント・コンピューティング」の到来を見すえている。

デジタルアシスタントが重要な役割を担う「アンビエント」とは何か。次回は、Nadella氏が「これからのOSはハードウェアを起点としない」とミーティングで述べた真意を読み解く。