関東甲信地方では観測史上最速となる6月29日に梅雨明けが発表されるなど、2018年は早くから気温が高い日が全国各地で目立った。梅雨らしいムシムシ・じめじめした暑さを感じる機会が少ないまま、夏のシーズンを迎えてしまったという人も多いだろう。だが、梅雨の時期が短いということは、真夏の暑さにさらされる日が例年よりも増えることを意味している。

となると、注意したいのが夏バテだ。食欲不振になったり、なんとなく体がだるかったりと、夏バテと思しき症状が既に現れている人もいるかもしれない。7月上旬から各地で真夏日や猛暑日がみられた今年は、いつも以上に夏バテ対策をしっかりと講じておく必要があると言えよう。

そこで、本特集では夏バテの原因や症状、予防のために食べたいレシピなどを紹介していく。初回となる今回は、内分泌代謝専門医の山本咲医師に夏バテの原因や症状について解説してもらった。

  • 外回りなどの仕事をしている人は、夏バテに注意しよう

夏バテという医学用語はない

まず、夏バテの定義についてだが、実のところ「夏バテ」なる医学用語は存在しない。夏の暑い時期に起きるさまざまな体の不調をひとくくりにして、夏バテと呼んでいる。

「医学的な言い方に言い換えると、『主に夏の暑さがきっかけで起きる自律神経の乱れを中心として引き起こされる、様々な心身の不調』の総称が夏バテです。自律神経の乱れが直接的な要因ですが、暑さによる食欲低下が引き起こす体力低下や栄養不足、睡眠不足や脱水なども夏バテの原因になります」

自律神経とは内臓や血管など全身をめぐっている神経であり、血圧や心拍を上げる交感神経と、その反対の作用をする副交感神経によって成り立っている。

脳は私たちが置かれた状況に応じ、この2つの神経のどちらを優位にするかを決めている。例えば、交感神経は仕事や運動をしているとき、または緊張を強いられる場面において、副交感神経よりも優位に働いている。

一方の副交感神経は人がリラックスしているときに優位になる傾向が一般的で、夜間や睡眠時に活発に活動している。この交感神経と副交感神経は、発汗や体温の調整、胃腸の蠕動運動などにも関わっており、人間の体に不可欠な神経と言える。

「脳からの指令によって、私たちの体内で交感神経と副交感神経が絶妙なバランスで作用しあい、常に体が一定の状態に維持されています。この一定の状態を維持する機能を『ホメオスタシス』と言います。このホメオスタシスが崩れると、体にさまざまな不調をもたらすのです」

夏に自律神経が乱れる理由

すなわち、自律神経の乱れに伴うホメオスタシスの異常が夏バテの主要因だ。ではなぜ、夏になると自律神経が乱れてしまうのだろうか。その理由の一つに「暑さ」があげられる。

「通常、自律神経は暑いときは血管を拡張させて熱を拡散し、体温を逃がすことにより体温調整をしています。この調整がうまくできなくなることにより、体を一定に保てなくなってしまいます」

また、暑いときにかく汗は、蒸発するときに気化熱を奪うことで体の熱を放出し、体温の上昇を防いでくれている。この働きを担っているのも自律神経なのだ。このように、暑い夏は自律神経がさまざまなシーンで稼働を強いられることになるため、どうしてもその機能に不調をきたしがちとなってしまう。

さらに「寒暖差」も問題となる。夏場は日中と朝晩の寒暖差が激しい。加えて日中でも、暑い屋外と冷房が効いた屋内の行き来を頻繁にする機会が増えてくる。

「夏はクーラーの効いた部屋で過ごす時間が増え、汗をかく機会が少なくなることや、暑い屋外からエアコンの効いた屋内へ戻るなど、急な温度差にさらされる機会が多くなります。すると体に負担がかかり、一定の状態に維持する機能であるホメオスタシスが崩れ、発汗や体温調整がうまくできなくなります」

このような温度変化にも自律神経は対応しているため、どうしても疲弊してしまう可能性が高まるという。