「現代の若者は車離れが加速している」といった話も聞きますが、1970年代のスーパーカーブームで育ったミドル世代としては、憧れの車種がひとつやふたつあるものです。そこで本連載では、ミドル世代が「いまコレに乗りたい!」と思うような四輪自動車について、新旧を問わず紹介していきます。
今回紹介するのは、コンパクトかつ愛らしいデザインが特徴的な「BMC・ミニ」です。
自動車業界の常識を変える革命的なFFレイアウト
「ミニ」というと、現在では独BMWが販売する車両を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか? もちろん、こちらの現行ミニも素晴らしい車なのですが、今回紹介したいのはその原点となった「BMC・ミニ」のお話です。コンパクトかつ愛らしいデザインが特徴で、「クラシック・ミニ」や「ローバー・ミニ」などの愛称でも呼ばれています。
初代のミニは、1959年に英BMC(British Motor Corporation)が製造し、オースチンおよびモーリスのブランドから「オースチン・セブン」「モーリス・ミニ・マイナー」の名称で販売が開始されました。
その特徴は、コンパクトなボディに横置きのエンジンと前輪駆動を採用したこと。このFF(フロントエンジン・フロント駆動)レイアウトは、現在でこそ一般大衆車のベーシックなスタイルとなっていますが、当時は自動車業界の常識を変える革命的なものでした。
41年間もの長きにわたってモデルチェンジなし
BMCは、1966年に英ジャガーを吸収してBMH(British Motor Holdings)へ、さらに1968年にレイランドグループおよびローバーグループと合併してBLMC(British Leyland Motor Corporation)と企業統合を図りましたが、生産・販売会社の名前を変えながらも、1959年から2000年まで41年間もの長きにわたってミニの生産・販売を継続しました。
さらに驚くべき点は、細かな変更こそあったものの、一度もモデルチェンジすることなく製造が続けられたことです。BMC・ミニは製造年代によって初期型の「Mk-I」から最終型の「Mk-X」まで分けられますが、世界中でもこれだけ変わらずに愛され続けた車種は珍しいでしょう。
ちなみに、BMC・ミニが「ローバー・ミニ」とも呼ばれている所以は、企業統合の中で製造メーカー名がローバー・グループに変更された頃の名残でもあります。
日本市場でのブームが支えたBMC・ミニ
また、BMC・ミニと日本市場の極めて密接な関係性も特筆すべきポイントです。イギリスにおいてBMC・ミニのブームは1970年代頃まででしたが、1980年代後半に入り日本市場での人気が爆発。販売台数で本国を上回るほどの勢いを見せ、経営不振に陥っていたBMCを支える形となったのです。
その中でも多くのファンから支持されたのが、スポーツグレード「クーパー/クーパーS」でしょう。クーパーは、モータースポーツ界で数々の実績を残したジョン・クーパー氏が、当時の英国サルーンカー選手権で勝つために協力・誕生しました。その戦闘力は高く、モナコ公国を中心に行われる世界ラリー選手権(WRC)のイベント「ラリー・モンテカルロ」では1964年に初優勝、1965年と1967年にも見事に総合優勝を果たしています。
1966年も着順は1位でしたが、残念ながら補助灯のレギュレーション違反という扱いで失格となってしまいました。このクーパー/クーパーSも一時期はラインアップから外れていましたが、日本市場でのブームと熱烈なファンの要望を受けて復活したのです。
このように、世界各国の車好きはもちろん、日本市場とも密接なつながりを持ちながら、いまだ数多くのファンを魅了し続けているBMC・ミニ。スプリングではなく「ラバー・コーン・サスペンション」と呼ばれる"ゴムの塊"を用いたサスペンションや小径10インチタイヤなどが生み出す、レーシングカートのようなクイックなハンドリングは、一度乗ったら癖になってしまいます。
中古市場でもそれなりの数が販売されているので、そのフィーリングをぜひ一度味わってみてください。