ロシアは世界最大の陸地面積を誇る国だけに、数多くの寝台列車が走っている。中でも最も有名な列車が、今回取り上げる「赤い矢号」。ロシアの首都モスクワと第2の都市サンクトペテルブルクを結ぶ。高速列車「サプサン号」も同じ区間で活躍しているが、「赤い矢号」の人気も根強いという。実際に乗車し、人気列車の実情を探ってみた。
「赤い矢号」はモスクワ~サンクトペテルブルク間約650kmを結ぶ寝台列車。前回紹介した高速列車「サプサン号」が同区間を約3時間40分で走破するのに対し、「赤い矢号」は約8時間を要する。ところが、2009年に「サプサン号」がデビューした後も、ロシア人の間で「赤い矢号」は根強い人気があるという。
ロシア国鉄のホームページによると、「赤い矢号」は1931年にデビューし、登場当初の車両は現在の赤色ではなく、青色だったという。現在の赤色になったのは第二次世界大戦後の1949年。デビュー当初から最上級の列車として扱われ、旧ソ連時代において、今日でも最高クラスにあたる「エスベー」を連結した最初の列車となった。速達性や快適性だけでなく、正確な運行でも知られ、1930年代でもほとんど遅れなかったようだ。
「赤い矢号」は伝統ある列車として、大切に扱われてきたことがわかる。同乗したロシア人に聞くと、「赤い矢号はロシアで最も有名な列車だ」と話していた。
2019年4月現在、サンクトペテルブルク発モスクワ行「赤い矢号」は、サンクトペテルブルク・モスコフスキー駅を23時55分に発車。モスクワ・レニングラード駅(モスクワ・レニングラーツキー駅)には7時55分に到着する。
乗車当日、筆者はサンクトペテルブルク・モスコフスキー駅に23時10分に着いたが、すでに「赤い矢号」がホームに入線していた。
ロシア国鉄のほとんどの客車は灰色をベースにした標準色だが、「赤い矢号」は赤色をベースに黄色の帯が入る特別塗装となっている。濃い赤色からは気品が感じられ、この列車が特別な存在であることを感じさせる。ホームには外国人観光客が想像以上に多い。「赤い矢号」はロシア国内だけでなく、世界中で知名度は高いようだ。
いつも通り車掌にパスポートとEチケットを見せ、車内に入る。筆者は二等車を予約しており、料金は4,098ルーブル(約7,000円)だった。
車内は4人用個室になっていて、ロシア国鉄の新車と同等の車内設備になっている。カーテンにはロシア語の「赤い矢号」の頭文字をデザインした刺しゅうが施されていた。テーブルにはパン、ヨーグルトと朝食用ボックスが置かれ、これらは料金に含まれている。テーブル下にはコンセントが2口あり、タブレットなどでエンターテインメントを楽しみながらの充電も可能だ。
また、以前に筆者が乗車したシベリア鉄道の長距離列車とは異なり、アメニティグッズが充実している点も特徴。小さいながらも靴べらが用意されていることには驚いた。
23時55分、「赤い矢号」はサンクトペテルブルク・モスコフスキー駅を静かに発車。その後、食堂車のスタッフから朝食の注文を聞かれたので、オムレツを注文する。
筆者が乗車した車両では、出張に向かうビジネスマンが多く乗っていた様子。サンクトペテルブルクを深夜に出発し、モスクワに朝ラッシュ時間帯に着くため、ビジネス特急としては最適な時間設定なのだろう。列車は70km/hほどの足取りで、一路モスクワへと向かう。モスクワ~サンクトペテルブルク間は路盤が良いため、揺れは少ない。すでに深夜だったこともあり、寝床につくことにした。
起床したのは翌朝6時30分。モスクワ・レニングラード駅到着まであと1時間30分となっており、車内は慌ただしい。「赤い矢号」はノンストップなので、乗客全員がモスクワへと向かう。
身支度を整えると、昨日注文したオムレツとハムが入ったパックが配られ、ついでに50ルーブル(約90円)の紅茶を注文する。テーブルにあったパンとヨーグルトを一緒に食べると、なかなか充実した内容の朝食となった。したがって、乗車時からテーブルにあるヨーグルトやパンは、夜食として手をつけないことをおすすめしたい。
「赤い矢号」は定刻通り、7時55分にモスクワ・レニングラード駅に到着した。周辺にはカザン方面へ向かうカザンスキー駅やシベリア鉄道の終着駅であるヤロスラヴリ駅(ヤロスラフスキー駅)がある。地下鉄は豪華な装飾で知られるコムソモーリスカヤ駅に接続する。「赤い矢号」の乗客のほとんどが、足早にモスクワの中心地へと向かった様子だった。