「イギリスに来たからには、ぬるくて泡のないビール、リアルエールを全部制覇してやる!!」と意気込んで臨んだパブ巡りだったが、さすがにきつくなってきた。お腹はいっぱいになるし、不思議なことにとても喉が渇くのだ。日本でやっていた「グビグビ、プファーッ! 」が懐かしくなって、ついにラガービールに手を出してしまった。
まずはパブに行き、グラスゴーの大手ブルワリーが製造する「テネンツ」(ハーフパイント £1.32)をオーダー。グラスゴーといえば中村俊輔が在籍するフットボールクラブ「セルティック」の本拠地だ。出てきたビールは、泡は少なめだったが輝く黄金色。ライトな喉越しで、「気持ちいぃー! うまーい! これよ、これ!! これが飲みたかったのよー」。次はロシアの「バルティカ」(ハーフ £1.52)を注文。こちらもグビーッといこうと思ったが、ここで少し冷静になってみた。
店内を見渡してみると、リアルエール以外は海外ブランドのタップ(サーバー)がニョキニョキと並んでいる。先の「バルティカ(ロシア産)」以外にも、「アムステル(オランダ産)」「スタロプラメン(チェコ産)」などがあり、バラエティ豊か。そして……おぉ!! キリンの「一番絞り」までもがスタンバイ。こんなところで日本のビールに出会うとは……。
私がたまたま来店したパブではこのようなラインアップとなっていたが、リアルエール以外の品揃えはもちろんパブによって異なる。しかしどの店もオススメのビールは地元の「テネンツ」ではなく、ベルギー・インベブ社のビール「ステラアルトワ」(ピルスナー)だった。さすが、世界No.1シェアを誇るインベブ社である。
そしてこれらのビールは、全てキンキンに冷えている。日本の飲食店で供される生ビールはおよそ2℃といわれているが、こちらも同様、もしくはそれ以下かもしれない。そして、「ギネス」の冷たい版ともいうべき「ギネス エクストラコールド」(1パイント £2.9)なるものまで存在していた。
ご存知の方も多いかもしれないが、ギネスはアイルランドの黒ビール(スタウト)。麦を発芽させず、ローストしているのですっきりとした苦味が出る。サーバーから注ぐ際に窒素を60%ほど(残りが二酸化炭素)使うことで、クリーミーな泡をつくり出している。一方エクストラコールドは、普通のギネスを7℃で提供するところ、2℃で提供する。窒素を使わないでサーブするため、クリーミーな泡にはならないが、その分注ぐ時間が短縮される。
通常、ギネスは2度注ぎ。1度注いで泡が落ち着くまでの理想は119.5秒だそうだから、それに比べると相当効率的だ。今やエジンバラのパブの半分はギネスとエクストラコールドの両方を置いていて、売れ数も半々だという。しかし、「ここがもしギネスの本場アイルランドだったら、100%の客がぬるい普通のギネスをたのんでいるだろうね」と、パブの店主は笑っていた。
ぬるいリアルエールを本場で味わい、満足げな私の隣では、イギリス人なのに冷たいビールをゴクゴクと飲んでいたり……。しかし、旅ってこんなものだ。観光客は地のものをせっせと食べようとするが、その土地の人たちが毎日郷土料理を食べているかと言えばそんなわけはないのである。私的には貴重な体験ができたので、それで十分だ。
しかし、1つだけ非常に痛かったことが。ユーロ高が世間を騒がせていたが、ポンドも相当なものなのだ。パブによって1杯の値段に若干の差はあるものの、1パイントが£3弱、ハーフで£2弱。これがひと昔前の200円 / £ならまだ日本よりお安い感じではあるが、私が訪れた際は約240円 / £だった。1軒で3杯飲むと軽く2000円を超える。1日に3軒はしごしたら、何も食べなくても6000円以上の出費!!(「それはいくらなんでも飲み過ぎでは!?」とうい声も聞こえてきそうだが)。6000円といえば、レストランでディナーコースが楽しめるような金額なのだ。なんたること……。こんな風に愚痴りつつ、それでも飲まずにはいられないんですけどね。