前回、「イギリスビールといえばぬるくて泡がない」という理由について解説した。しかし皆さん、勘違いしてはいけない。なにも「ぬるい=まずい」とは限らない。ここからは、いよいよ本格的なイギリスビールレポートに入っていく。
まず最初に立ち寄ったパブでは、エジンバラにあるブルワリーのリアルエール「カレドニアン80」をハーフパイントで(300ml弱が£1.5)。銅色に輝く液体に泡はほとんどなく、香ばしい麦や干草の香り。一口飲んでみると、やはりぬるい。ほのかな麦の甘さはあるが、じんわりとモルトの苦味が口の中を支配していき、それを後追いする鈍い酸味が長く喉元にとどまる。そして早くも2杯目。こちらもスコットランドのリアルエール「コッパー カスケード」(ハーフパイント£1.35)。琥珀色の液体に……やはり泡は少ない。あくまで私の想像を裏切らないビールたちである。アメリカンエールの十八番、カスケードホップを使っているかはわからなかったが、前述のカレドニアンよりは華やかな香り。苦味と酸味が特徴的である。
ここまで飲んでふと気づいた。このぬるさ、麦芽本来の持つ芳醇な味やホップの華やかな香りを堪能できる最適な温度なのではないか、もしこれらを冷やして飲めば、肝心の味や香りが鈍るのではないか、と。
そしてもうひとつ気付いたことがある。お腹がいっぱいなのである。たったハーフパイント2杯で。ドイツではビールのことを「飲むパン」と例えるが、リアルエールはドイツビールの比ではない気がする。なぜならドイツのビール、というかビールの多くは二酸化炭素が入っているので、少なからず空気も飲んでいくことになる。それに対し、リアルエールはほとんどの二酸化炭素を発酵途中で抜いてしまうので、目いっぱい液体なのだ。気泡のない目の詰まったパンを食べているような気がしたのは私だけか? いずれにせよ、これらをグビグビと何杯も飲むことは不可能であった。
このコラムが始まってから、記事の中の私は酒を飲んでばかり。読者の皆さんからは「この女、ソムリエなんかじゃなく、単なるのん兵衛では……」という疑いのまなざしで見られているような気がしてならないのだが、私だって遊びで飲んでいるわけではないのだ(と、自らを正当化)。
酒飲みには辛い時代の到来!?
さて、重いお腹をさすりながらもう1杯(「さっき、ギブアップしたんじゃないのかよ!!」という突っ込みが聞こえてきそうだが)。今度は先ほどと同じブルワリーの「カレドニアンXPA」(1パイント£2.7)。XPAの"X"は"EXCITE"からとったものということ。エールの種類に「IPA」というものがあり、これは「インディアン・ペール・エール」の略。IPAのはじまりは18世紀末頃、当時のインドで働くイギリス人のためにつくったビールとされている。輸送の際の劣化を防ぐためにホップを多めに入れ、アルコール度数が7~8%と通常のビールより度数の高いビールとなっていたそう。今回紹介したXPAはアルコール度数が4.3%で、同じブルワリーのIPAの度数3.8%より高いのでこう名づけたとのことだ。
皆さん、もうお気付きかと思うが、イギリスエールのアルコール度数は日本のビールに比べると低い。イギリスエールは4%だとアルコール度数が高い部類に入るらしい。日本のビールの多くは5%であるから、この数字を見比べてみてもイギリスエールのアルコール度数の低さがわかると思う。ベルギーでも同様、ビールはどんどんライトになっていると聞くし、カリフォルニアではアルコール度数8%未満のワインの売れ行きが好調だというではないか。ヘルシー志向の流れだろうが、ガツン系を好む私としては少々寂しくもある。もっともその分、私はアルコール度数の低さを量で補うのだが……。