しばらく前から噂が流れていたアップルによるBeatsの買収計画が5月末に正式発表された。Beatsとは、音響関連アクセサリーメーカーのBeats Electronicsならびに音楽ストリーミングサービスのBeats Musicの総称だ。4億ドルのインセンティブもふくめて30億ドルにも上る「アップル始まって以来」とされる大型企業買収についてはすでに広く報じられている通りだが、実はあの取引で一儲けした有名人が、ジミー・アイオヴィンとDr.ドレ(Beatsの共同創業者)以外にも何人かいたらしい。

その1人は、以前に少し触れたこともあるブラック・アイド・ピーズのフロントマン、ウィル・アイ・アム。「ウィルがBeatsの株式を保有しているのではないか」という話は、買収の噂が流れた直後の5月半ばにFortuneで報じられていたが、6月はじめにはウィル自身がBloombergに出演し、「その昔、ジミー(アイオヴィン)に『これからはハードウェア・ビジネスをやらないとダメだ』と薦めた」などと喋っていた。


[Will.I.Am: I Make My Music on Apple Products - Bloomberg]
(冒頭の部分で「ウィルはBeats創業時からの株主」と紹介されている)。


ウィルが「この買収でどれくらい儲けたか」といった部分は不明だが、「テクノロジー分野に明るいアーティスト兼ビジネスマン」として大企業相手に商売するウィルとしては、自らに「先見の明」があるところを示せただけでも十分な報酬といえるかも知れない。

一方、米国時間6月12日付のESPNの記事には、NBAの“帝王”、レブロン・ジェームズが、この買収で「3000万ドル以上儲けたようだ」という話が載っている。

この話によると、レブロンはBeatsが創業からまもない2008年に、Beats by Dre製ヘッドフォンの「広告塔役」を引き受ける代わりに同社から若干の株式を受け取っていたらしい(資金にあまり余裕のないベンチャー企業が、現金の代わりに株式を提供するというのは珍しいことでもない)。この時手に入れた株式の割合が仮に1%だったとすると、売却額が30億ドルだから、その100分の1で3000万ドル……なんだか辻褄の合う数字にも思える。

また、レブロン・ジェームズの幼なじみでビジネス面のマネージャーでもあるマーベリック・カーター(LRMRというレブロン専属マーケティング会社の共同経営者で、元CAA所属のエージェント)とジミー・アイオヴィンが親しい関係にあるのも一部では知られた話。カーターは一昨年、2008年当時にアイオヴィンに話をしていて、「レブロン経由で北京五輪の米国代表チームメンバー全員に配る」というプロモーションのアイデアを思いつき、アイオヴィンに「Beats by Dreのヘッドフォンを15個用意させた」などと語ってもいた(一部には「北京五輪代表チームのメンバーが、Beatsのヘッドホン着用で飛行機から降りてくる姿がテレビで放映されたことで、Beatsの名が一気に知れ渡った」といった話もあるようだが、それらしい写真は見つからなかった)。いずれにせよ、レブロンのその後の露出度を考えれば、Beatsにとっては「かなりお得な取引」であったと思われる。


[Beats by Dre | The Game Before The Game]
(サッカーのワールドカップ・ブラジル大会向けにBeatsがつくったTVCM。レブロンはここにも何度か顔を出している。ほかにニッキー・ミナージュも一瞬だけ登場している)。


なお、レブロンの今シーズン(2013-14シーズン)の報酬は約1,900万ドル(NBAプレーヤーとしては第9位で、人気・実力を考えるとやや少ない印象:ESPN)。ただ、ナイキ、マクドナルド,コカコーラなどとのエンドースメント契約でそのほかに推定5,300万ドルの収入があり、Forbesの最新所得ランキングではNBAプレーヤーのなかで1位、プロアスリート全体でみても3位(年収総額7230万ドル)にランクインしている。

なお、プロアスリート全体では、ボクシングのフロイド・メイウェザー(年収総額1億500万ドル)が首位(大きな試合が2つあったらしい)。また2位にはクリスティアーノ・ロナウド(同8000万ドル)、4位にはメッシ(同6470万ドル)と2人のサッカー選手がランクイン。5位は前年度にNBAでトップだったコービ・ブライアント(同6150万ドル)。

Floyd Mayweather Heads 2014 List Of The World's Highest-Paid Athletes - Forbes (この記事にも「アップルのBeats買収でレブロンがいくらか稼いだ」云々という言及がある)

この連載の初期(2年ほど前)に「ジェイ・Zが大手消費財メーカーのP&Gと組んで非接触充電装置のジョイントベンチャー(JV)をつくった(同社の株主になった)」云々という話を紹介した。またよく取り上げていた「ハリウッドの有名人が、テクノロジー関連のベンチャー企業に投資」といった話も、今ではごく当たり前になった感がある。そういう状況なので、プロアスリートが企業売買に絡んで一儲けしてもとくに意外ではないが、こうした「広告塔ビジネス」がNBAの勢力図まで塗り替えることになりそう……という点は、NBAファンにとって大いに気になるところでもある。

参照情報

Behind the scenes, a frontman awaits a payday - Fortune

Beats By will.i.am: Co-Founding and Cashing In With Jimmy Iovine - Billboard

Heat look to target Carmelo Anthony - ESPN

Maverick Carter out to silence critics - Fox Sports

The World's Highest-Paid Athletes 2014(Forbes、6月11日付で更新) - Forbes