第84回アカデミー賞授賞式 Michael Yada / ©A.M.P.A.S.

ロバート・ダウニーJr.扮する「アイアンマン」といえば、ここ数年は世界でいちばん有名な「地球を救うヒーロー」だ。そのアイアンマンにちなんだアトラクションが香港にあるディズニーランド(以下、香港DL)に作られることになったという。

To Lift Hong Kong Park, Disney Deploys Iron Man - NYTimes

2016年にオープン予定のこの「Iron Man Experience」、プロジェクトの詳細はまだ明らかになっていないが、1億米ドル以上の予算をかけて、アイアンマンにちなんだアトラクションやフォトパビリオン、ショッピングエリアなどが作られるようだ。また、ディズニーは2009年に約40億ドルの巨費を投じてマーベルを買収していたが、そのキャラクターに関連したアトラクションがディズニーランドにつくられるのはこれが初めてになるという。今回は、ディズニーにとっての“伝家の宝刀”ともいえる「アイアンマン」のアトラクションがなぜ香港のディズニーランドに作られることになったのか、その経緯などについて少し話をしてみよう。

まず、『アイアンマン』シリーズの各作品や『アベンジャーズ』といった映画がディズニーにとってドル箱になっていることは周知の通りだが、これらが中国市場でも大人気で、たとえば今年劇場公開された『アイアンマン3』は中国での興行収入が1億2,120万ドル(BoxOffice Mojoによると、全世界では12億1471万ドル)、また『アベンジャーズ』も8,410万ドル(同15億1175万ドル)に達したという。とくに中国向けの別バージョンを用意したという『アイアンマン3』は、売上全体の約10分の1を中国で稼いだ格好だ。

一方、香港DLは2005年の開園以来、経営的に苦戦が続いているらしく、上記のNYTimesの記事には「昨年初めて黒字に転じた(ただし利益は1,400万米ドルとごくわずか)とある。ディズニーは全世界で11カ所の大型テーマパークを運営しており、その利益は昨年合計で19億ドルに、また来場者数も1億2650万人にそれぞれ達していたというから、昨年の来場者数が約670万人だった香港DLは全体のなかで、簡単にいうと「取るに足らない存在」といえるかもしれない。

この苦戦を招いた理由は、香港DLの規模が小さく、魅力に乏しい(集客力で劣る)からだそうだが、そうなった経緯についてNYTimesは「開園当初には閑古鳥が鳴いていたフランス・パリのユーロ・ディズニーでの反省をふまえ、その後に計画した香港DLでは『段階的拡張』という安全策のアプローチを採ったことが裏目に出てしまったため」などと説明している。またこの点をてこ入れするべく、香港DLでは2年ほど前から4億6500万ドルの予算を投じて大規模な拡張を進めており、その影響で集客数も徐々に上向いてきているという。

だが、香港DLを取り巻く競争環境は厳しく、直接のライバルである地元のOcean Park(香港海洋公園)に加え、2015年には上海ディズニーランドがオープン、さらに以前に触れた青島の「中国版ハリウッド」(大連万達グループが打ち出した映画関連のテーマパーク&リゾート・プロジェクト)などもオープンして、中国本土からの来客を奪い合うことになる。「中国ではいま新幹線網の整備が猛烈な勢いで進んでいて、それにつれて利用者も大幅に伸びている」「近距離の航空路線のなかには、新幹線に対して勝ち目がないと、廃止になるところも増えている」といった話も出ているくらいなので、来場者の半分弱(2012年には45%で、2006年の34%からは上昇)を中国本土からの観光客に頼る香港DLにとっては当然「手をこまねいてはいられない事態」ということになろう。

またウォルト・ディズニー側には「香港は現状維持でも、上海(に開業するディズニーランド)で大儲けできれば、それでよし」といった思惑もあったかもしれない。だが、香港DLの過半数(52.44%)を保有しているのが香港政府ということで、ディズニーとしては消極策を採るという選択肢が消え、「どんな手をつかってでも香港DLを立て直さなくては……」という立場に立たされた、それで引っ張り出すことにしたのがいま一番人気の「アイアンマン」……だったということなのだろう。

追記:ロバート・ダウニーJr.にも救えそうにないHTCの苦境

ここ2年ほど経営不振が続いている台湾のスマートメーカー、HTCが今年6月に自社のイメージチェンジに向けた取り組みの一環として、ロバート・ダウニーJr.と2年間2,000万ドルのエンドースメント契約を結んだ、というニュースが流れていた。


この契約の下で、下掲のCMなどもつくられていた。


ただし、HTCの経営悪化にはその後も歯止めがかからず、前四半期には2008年以降で初めての赤字を計上、先週末には同社のシェール・ワン会長が「今年11~12月が正念場」などと語っていた。


アイアンマンの起用を持ってしても、アップルやサムスンといった強敵を相手に巻き返すのはやはり難しい、ということか。