NYTimesでこの週末に、ロビン・シック(Robin Thicke)という白人R&Bシンガー/ソングライターのことを採り上げた記事が掲載されていた。『Blurred Lines』という曲が現在ビルボードのHot 100チャートで首位を走り続けており、にわかに全米の人気者になったおかげで、最近ではジャスティン・ティンバーレイクと間違われることもめっきり少なくなってきた……といったことがその冒頭には書かれている。
Robin Thicke, a Romantic, Has a Naughty Hit - NYTimes
[Robin Thicke - Blurred Lines ft. T.I., Pharrell]
(どことなくティンバーレイクとピットブルを掛け合わせたようなロビン・シック。このなんともノリのいい、お気楽な調子の歌には大人向けのプロモ・ビデオもある)
「何がきっかけで大ヒット(曲)が生まれるかは、当人もふくめてなかなか予想がつかない」。この記事を呼んでいて面白いなぁと思った点を一言で書くとそういったことになるが、その話をする前に、シックのプロフィールを簡単に記しておく。
今年36歳になるロビン・シックは、エンタテインメントの世界で生きる人間としてはかなり恵まれた条件の持ち主と言えそうだ。テレビドラマなどで活躍した父親(アラン・シック)と、ヒット曲も持つ母親(グロリア・ローリング)の間に生まれ、母親が好きだったブラック・ミュージック(アレサ・フランクリン、ルーサー・バンドロス、それにマービン・ゲイなど)を聞きながら育った。10代なかばには歌手・プロデューサーのブライアン・マックナイトに見いだされ、16歳でジミー・アイオヴィンの経営するインタースコープ・レコードと契約。それ以来、クリスティーナ・アギレラ、ジェニファー・ハドソン、R・ケリー、リル・ウェインなどに楽曲を提供する売れっ子となった。2007年にあったビヨンセの『The Beyoncé Experience』ツアーではオープニング・アクトも務めていたらしい。また自らのアルバムも2003年の『A Beautiful World』以来これまで5作にのぼり、7月30日には第6作めとなる『Blurred Lines 』が発売される。
また、このシック、16歳の時から交際し、2005年に結婚した女優のポーラ・パットンとの「オシドリ夫婦」ぶりでも有名らしい。今回初めて知ったが、パットンは『ミッション:インポシブル/ゴースト・プロトコル』のジェーン・カーター役や、クィーン・ラティファ主演の『恋のスラムダンク』でモーガンというゴージャスな脇役を演じていた女優。なおこの映画(原題『Just Wright』)は、ブルックリンに引っ越す前のネッツが全面的に協力しており、レブロン・ジェームズ、ドウェイン・ウェイド、ドワイト・ハワード、レイジョン・ロンドといったNBAの現役スーパースターが数多く本人役で顔を出している、NBAファンにとっては貴重な作品。
さて。
このNYTimes記事には、シックの1作目のアルバムが興行的には失敗に終わったものの業界内で高い評価を集め、ファレル・ウィリアムス(上掲のビデオにも登場している音楽プロデューサー)やアッシャーらもファンになった、などと書かれている。アッシャーは「ビートルズ、アース・ウィンド&ファイアー、シュギー・オーティス、マービン・ゲイ(といったビッグ・アーティストの要素)が一枚のアルバムに詰め込まれていて、思わずぶっ飛んだ」そうだ。ただし、2枚目の『The Evolution of Robin Thicke』(2006年)こそ160万枚の大ヒットを記録したものの、その後にリリースされた2作品は売上が50万枚以下に留まり、このところ(アーティストとしては)頭打ちといった状態が続いていたらしい。
マービン・ゲイやジョン・レノン、ボブ・マーリーといったアーティストにあこがれ、彼らのような「社会に対する良心」を持ったソングライターを志向するロビン・シックは、これまでずっとそうした想いをストレートに歌にしてきた。そんな彼が今回『Blurred Lines』のようなアップテンポの(異色な)曲をアルバムに含めることにした理由について、本人は「夜、妻と一緒に(完成前の)デモテープを聴いていたんだが、なぜだかシリアスな曲は飛ばして、アップテンポな曲ばかり聴きたくなっていた。(3歳になる)息子を寝かせた後には、好きな相手とダンスして楽しめば、それでいいんじゃないか……そう気付いて、今回の作品はできるだけ楽しめるものにしようと決めたんだ。悲しい曲は後にとっておけばいいと思った」などとコメントしている。
『Blurred Lines』のアルバムのほうには、ファレル・ウィリアムスのほか、ティンバーランド、ドクター・ルーク(ケイティー・ペリーやケシャなどをプロデュース)、そしてウィル・アイ・アムといったヒットメーカーがプロデューサーとして参加。シックは「彼らのおかげで、自分の殻を破ることができた」などと述べている。
このNYTimesの記事の最後には、歌詞の内容が女性を侮蔑しているとか、プロモビデオの映像がかなり際どいなどと一部で波紋を呼んでいる『Blurred Lines』に触れて、「妻が好きじゃないなら、曲を出そうとは思わなかっただろう」などいうシックのコメントも見られる。また5月初めにGQに掲載されていたインタビューの冒頭には、シックがこれから監督を手がけようとしている短編映画『Mercy』の話も出ている。ガンにかかった妻の治療ですべてのお金を使い果たし、家からの退去命令を受けてしまった挙げ句に、40年間連れ添った妻を射殺した男の話を題材とした物語になるという。
この話を映画にしたいと思った理由について、シックは「あのニュースを目にして(10代の時から一緒にいる)妻がもし病気になり、そして自分も病気にかかってしまったら、いったいどうなるんだろう……そんなことを考えていて、これはみんなに知ってもらいたい大切な話だと思った」からと説明している。
なんとも奥さん想いなセレブである。
Robin Thicke on That Banned Video, Collaborating with 2 Chainz and Kendrick Lamar, and His New - GQ
追記:ジマーマン事件の被害少年に寄せられる想い
ジェイ・Zとジャスティン・ティンバーレイクの「Legends of the Summer」ツアーが先週ついに始まった。皮切りとなったヤンキー・スタジアム(ニューヨーク)でのコンサートでは、お馴染みのラストの一曲「Forever Young」が、先に米国で大きな波紋を呼んでいた黒人少年射殺事件(ジマーマン事件)の被害者、トレイボン・マーティン君に捧げられていた
Jay-Z&ビヨンセ、被害者の母と共に。全米注目の黒人少年射殺事件抗議活動に参加 - マイナビニュース
射殺した自警団の白人に無罪判決が下されたこの事件については、事を重くみたオバマ大統領も記者会見を行い、「若いときの自分にも起こっていたかもしれない」("Trayvon Martin could have been me 35 years ago")などと自らの考えを明かしていた。