前編はこちらから→→NBA現役選手の同性愛告白をめぐる反応と課題〈前編〉
現役のNBA選手ジェイソン・コリンズが同性愛者であることを公表したことに対して、NBA選手や関係者の間からは「彼のカミングアウトを積極的に支持する」とする反応が上がっていた。コービー・ブライアント、ジェイソン・キッド(コリンズのネッツ時代の先輩)、スティーブ・ナッシュといった大ベテランから、いまのNBAを背負って立つマイアミヒートの「3キングズ」(レブロン・ジェームズ、ドウェイン・エイド、クリス・ボッシュ)やケビン・デュラント、トニー・パーカーなどのスター選手、さらにはデビット・スターンNBAコミッショナーあたりまでが、Twitterや声明を通じて、「カミングアウトという勇気ある行動に出たジェイソンのことを誇りに思う」といった発言を一斉にしていた。たとえばコービはTwitterで「コリンズ(@jasoncollins34のことを誇りに思う。他人の無知のせいでほんとうの自分を圧し殺すことなどあってはならない」などとツィートしていた。過去にゲイを差別する発言で「高い月謝」を支払わされた経験のあるコービとしては、その教訓をしっかり活かした格好、とも受け取れる。
また最近Twitterを始めたばかりのビル・クリントン元大統領(いまでも国民の間で人気が高い)あたりもコリンズの行動を称える発言をしていた。さらに1年ほど前に、同性婚の支持を正式に打ち出していたオバマ大統領も、さっそくコリンズに電話して励ましの言葉などを送っていたという。
こうしたコメントのなかでとくに目を惹いたのが、今シーズン半ばまで何年かコリンズと一緒に戦ってきたボストンのヘッドコーチ、ドック・リバースの言葉。WSJ記事にはリバースHCの「ジャッキー・ロビンソン(MLB初の黒人選手)から学んだことがあるとすれば、それはいつもこうしたことを真っ先に受け入れるのはチームメイトだということ。社会はこれから『寛容』について学ばなくてはならない」とする発言が引用されている。つまり、リバースの目には、ジェイソン・コリンズのカミングアウトが、かつて人種差別の撤廃でジャッキー・ロビンソンが果たした役割に匹敵するものと映っているということだろう。
もうひとつ、Bloombergが紹介しているビリー・ジーン・キングとマルチナ・ナブラチロワの話も興味深い。2人とも70年代後半から80年代にかけて大活躍した、女子プロテニスの歴史に名を残す名選手で、レズビアンであることを公言している。当時は同性愛者に対する偏見がとても強くて、2人ともそのことが発覚したときには、それぞれスポンサー企業が逃げてしまい、精神的な苦痛に加えて、財政的にもかなりの痛手を被っていたという。
それから三十数年がたったいま、現役プロアスリートの「カミングアウト第一号」となったジェイソン(と彼の代理人)のもとには、エンドースメント契約を希望する企業からの問い合わせが殺到していても不思議はない……このBloombergの記事にはそんなことが書かれている。ちなみにジェイソンの代理人は、いまNBA選手のエージェントのなかでもっとも大きな影響力をもつとされ、松井秀喜の代理人も長年務めてきたアーン・テレムだ。
また、米国の同性愛者の購買力が年間8億ドルに上るとする試算の数字などもある。単なる売名行為や金儲けのために、ジェイソンがカミングアウトしたわけではないーーリスクの大きさを考えればその点は間違いないが、それでも誰かちゃっかり皮算用をしているあたりに、米国のスポーツビジネスに関わる人たちのしたたかさを感じさせられた次第。
長年背負ってきた重い肩の荷を無事下ろすことができたジェイソン・コリンズ。そして、彼のカミングアウトをほぼ教科書通りの模範的な反応で受け入れたNBA。しかし、彼らにとって「本当の試練はこれから」という指摘も一部にはある。NYTimesのある記事には「彼がまだ25歳と若く、毎試合25得点もたたき出すようなスーパースターだったら、話はもっとずっと簡単だっただろう」という一文がある。つまり、あくまで実力本位の勝負の世界では、同性愛者であろうがなかろうが関係ない、ということだが、その実力の点でいまのコリンズは微妙な立場にある。プロとしてのキャリアの終わりにさしかかり、ここ数年はベンチウォーマーの状態が続いていたので、来シーズンどこのチームと契約できなくてもいっこうに不思議はない、という見方もあるのだという。
そのいっぽうで、同性愛擁護の活動家などの間からは、「カミングアウトしたジェイソンが実際に試合に出なければ、本当に彼がNBAから受け入れられたとはいえない」旨の声も上がっている。雇う側(契約するチームの経営陣)としては、ジェイソンと契約すればそれが「えこひいき」でないことを世間にしっかりと納得させなければならず、またジェイソンがどこのチームとも契約できなかったとなれば、その時にも誰かが「同性愛者であることが理由ではない」と説明しなくてはならない。
さらにもう一つ、信仰に関わる大きな障害も待ち構えている。この一件でも、ESPNのある解説者が「同性愛は神(God)の教えに反する」などと発言したことが複数の媒体で伝えられているが、いまだに同姓婚を認めるかどうかの問題が片付いていない米国社会で、それに反対する人々の考え(偏見)が改まるまでには、やはりそれなりに長い時間がかかることになるのかも知れない。
追記:『華麗なるギャッツビー』の華麗なる音楽陣容
ジェイ・Zがこれまで所有していたブルックリン・ネッツの株式(0.067%)を処分して、いよいよプロスポーツ選手のエージェント業に本格的に乗り出すという話が、ネッツ対ブルズのプレイオフ第一戦の当日に報じられていたが、そのジェイ・Zが音楽監督を務めた映画『華麗なるギャッツビー』(レオナルド・ディカプリオ主演)が米国で5月10日に劇場公開された。このプレミアショーに「ジェイ・Zが姿を見せるかもしれないと聞いて、主演女優のキャリー・マリガンが大いにびびった」などという話がMTV.comに出ていた。
サウンドトラックの方は既報の通りとても豪華な顔ぶれで、ビヨンセやウィル・アイ・アムなどの名前もある。
個人的にはやはり「ビヨンセがエイミー・ワインハウスの『Back to Black』 をカバーする」というトピックが一番気になっている。