来年からいよいよ本格的な活動を再開しそうなビヨンセ。今月はじめには、ペプシとの推定5000万ドルにのぼるエンドースメント契約の締結が発表され、来年2月3日に開催されるNFLスーパーボウルのハーフタイムショー出演では、その後のCM枠でこの契約に基づいた新しいテレビCMが放映されることになりそうだという。
スーパーボウルのハーフタイムショー出演は新作アルバムのプロモーションを兼ねたもので、その前に新曲を発表するという噂も浮上している。さらにその2週間ほど後には、自ら監督するドキュメンタリー番組の放映も予定。また、その後にはペプシがこの契約の一環としてスポンサードするワールドツアーも企画されているという。
前作『4』では、その後に出産を控えていた関係から、2011年8月にローズランド・ボールルーム(ニューヨークにある劇場・多目的スペース)で4回ライブをやっただけだったから、『I am...』以来となる本格的なコンサートツアーはファンにとって大いに楽しみなところである。
さて、そんなビヨンセに思わぬところからちょっとした「物言い」がついたようだ。
「エンドースメント契約を下りるか、さもなくば契約金をそっくりそのまま糖尿病や肥満対策の活動にあたる病院や団体に寄付するように」という内容の書簡が、ソーダ(砂糖入り炭酸水のこと)の悪影響に警鐘をならす栄養関連の監視グループから送られたという。
この書簡を公表したのはCenter for Science in the Public Interest(CSPI)というグループ。書簡には「肥満、糖尿病、高血圧、心臓病などの間接的な原因となっているソーダの売り込みに、ビヨンセのような大きな影響力を持つ有名人が名前を貸すのは不適切」「これらの健康問題が、とくにアフリカ系やヒスパニック系の低所得層に多くみられることから、ビヨンセの責任はとくに重大」といったことが書かれているという。
ビヨンセは昨年、ミシェル・オバマ大統領夫人の進める肥満対策キャンペーン「Let's Move」に積極的に協力していた。
むろん、ミシェル夫人もビヨンセも「身体をもっと動かそう」といっているだけで、直接的に「ソーダを飲むのは控えましょう」と言ったわけではない。けれど、肥満対策の一環として、今年のはじめにニューヨーク市のマイケル・ブルームバーグ市長が、一定量以上の器に入った砂糖入り炭酸水を公的な場所で販売することを禁じる提案をして大きな論争に発展していた。そのことは広く伝えられている通りだ。
米国社会での肥満問題は、思いのほか深刻な事態になっている。たとえばUSA Todayの記事には「米成人の約34%が肥満、これが2030年には50%まで増える」「肥満関連の病気にかかる医療費(5年間)は女性で24,395ドル、男性で13,230ドル」などという試算もあるという(試算したのはSTOP Obesity Allianceという団体)。
ワシントンでは現在、年明け(目前!)に迫った「財政の崖」転落を回避しようと、オバマ大統領・民主党と共和党メンバーが話し合いを進めている。高所得者の課税率を引き上げたい(金持ちからもっと税金を取りたい)民主党に対し、共和党側は財政支出の削減(予算の引き締め)を望んでおり、医療費抑制もそうした争点のひとつとなっている。
ソーダのエンドースメントは、なにもビヨンセに限った話ではない。たとえば「Xファクター」はやはりペプシと契約しているし、ライバルの「アメリカン・アイドル」(アメアイ)はシーズン1からずっとコカ・コーラがスポンサーになっている。それぞれの番組で審査員のテーブルに大きなロゴの入ったデカいカップが並んでいるのも、そうした事情による(コカ・コーラとアメアイの契約額は年間2600万ドルとか)。また、今年夏にペプシとエンドースメント契約を交わしているニッキー・ミナージュの名前がアメアイの審査員候補として浮上した際には、関係者間で一悶着あったという話もある。
そうした次第で、ビヨンセ一人をやり玉に挙げても問題が大きく改善したり、状況が大きく変わったりするとは考えにくい。ただ、それでも過去の経緯や現在の政局なども考え合わせたとき、ビヨンセに対するCSPIの物言いには(良くも悪しくも)「うまいところを突いたな」と感じた次第である。
追記 - アーティスト育成に手を貸す飲料メーカー
ビヨンセとペプシの間で交わされたブランド大使の契約は、従来のエンドースメントに留まらない内容になりそうということで非常に興味深い。また、凋落が続くレコード会社に代わって、飲料メーカーや自動車ブランドなどが音楽アーティストの育成などに手を貸す例も目立ってきているという話が、冒頭に挙げたNew York Timesの記事に書かれていた。
これらの話については、次回にもう少し詳しく紹介したい。