以前に少し触れた大リーグ(MLB)ロサンゼルス・ドジャーズとフォックス・スポーツ(以下、フォックス)との試合放映権をめぐる契約が成立まで「あと一歩」というところまで来ているようだ。当事者間では「2014年からの25年間、総額61億ドル」という条件でほぼ合意、ところが「利益の独り占めは許すまじ」とMLB事務局側から物言いがついた、といった状況らしい。
Fox's Dodgers TV Deal on Hold as MLB Talks Continue Over Splitting $6.1 Billion - The Hollywood Reporter
21億ドル5000万ドルという前例のない大金を払ってドジャースを手に入れた現オーナーグループ、そしてエンタメ部門の分離・独立でますます厳しく採算性を問われるようになるフォックス。この両社が少しでも多くの利益を確保しようと、共同で新たにローカルのスポーツ・チャネル(有料放送)を立ち上げることにした。ところが、それではリーグ全体の取り分、とくに規模の小さな他のチームに渡るお金がなくなってしまうと心配したMLB側が、全国中継の放映権と同じ約3分の1を分け前として要求しているらしい。
大都市圏に本拠地を構えるチームが独自のケーブルチャネル(番組制作・配給会社)を持つ例は、これまでにもいくつかある。ニューヨーク・ヤンキースが経営するYES Networkーー先月にはフォックスが株式の約半分を15億ドルで取得したことがニュースになっていたーーや、NBA LAレイカーズとタイムワーナー・ケーブルが共同でつくったチャネルなどの先例がある。こうした自前の放送事業が大きな成功を収めたことで、MLBはここ数年、ニューヨーク、ロサンゼルス、それにテキサスといった大都市のチームの価値が大きく上昇、またそれにともない選手の年俸も一軍クラスで1000万~1500万ドルといった例も続出……といった話も聞く。米国時間19日には、すでに盛りを過ぎたとされるイチロー選手の契約更新(2年で総額1300万ドル)も発表になっていた。
いっぽう、基盤となる市場の小さな各チームは経営がそれだけたいへんになり、実力のある選手を引き留めておきたくても、その実力に見合った年俸が払えない、といったことになりがち。MLBの現コミッショナーであるバド・セリグは、現職に就くまでミルウォーキー・ブリューワーズというチームのオーナーだったが、このブリューワーズなどそうした地方のチームの典型といえるかもしれない。
野球に限らず、スポーツの試合というのは当然1チームではできないもので、しかもチーム間の力が開きすぎると、面白いゲームも成立しにくくなる。また、日本には「常勝ーー!」などと言い続けているチームがいまだにあるようだが、そんな金にあかせて有力選手を買い占めるようなやり方に対する反発があるのは米国でも同様で、今シーズン、オークランド・アスレティクスの期待を上回る活躍ぶりが大きな注目を集めた背景にもそうした心情があったかと思われる。そして、チーム間の力の差を是正するための原資、つまり放映権からの収入(MLB側がいったん預かり、それを各チームに分配する)を少しでも多く確保しておきたい、という思惑があるようだ。
さて。このドジャースーフォックス間の契約(交渉)の背景には、ケーブルや衛星放送といった有料テレビの分野で、フォックス・スポーツをESPN(ディズニー傘下のスポーツ専門チャネル)に匹敵する「ドル箱事業」に育てたい親会社ニューズコープの思惑がある。新たに発足するエンタメ分野の新会社ーーフォックス・グループ(Fox Group)の中核のひとつに、このスポーツ放送事業がなる、ということらしい。
Does Fox Dream of an ESPN? - Wall Street Journal
News Corp. Said to Plan U.S. Sports Network to Rival ESPN - Bloomberg
ちょっと驚いてしまうのは、このESPNの事業価値が単体でも推定400億ドル以上とされ、ウォルト・ディズニー全体の約半分を占める、という点。ディズニーの稼ぎ頭はもうミッキーマウスでも白雪姫でも、ピクサー映画のキャラクターたちでもない、ということになる。
Why ESPN Is Worth $40 Billion As The World's Most Valuable Media Property - Forbes
ESPN Is Nearly Half Of Disney's Stock Value But Could Suffer From Competition -
ちなみに、主な企業のいまの時価総額をみると、ソニーが約110億ドル、パナソニックが約135億ドル、米自動車会社のフォードが448億ドルなどとなっている(ディズニー全体では888億ドル)。
もうひとつ、ドジャースーフォックスの話で是非とも触れておきたいのがディック・クラーク・プロダクション(DCP)だ。ライアン・シークレストも取得をめざしたとされる例の放送番組制作会社で、今回の交渉のなかでは新設するドジャース・チャネルの運営をこのDCPがフォックスとともに担当するという可能性も検討されているという。グッゲンハイム・パートナーズという投資会社がドジャースのオーナーグループに主要メンバーとして名を連ね、同時に関連する企業がDCPを獲得している関係から出てきた話だが、「逃した魚は大きい」とシークレストもひそかに悔しがっていたりするのかも知れない……。
追記
いくら地元の話とはいえ、The Hollywood Reporterが随分と詳しい記事を載せているなぁ……と思ったら、同誌(もともとは業界誌)の親会社のPrometheus Global Mediaもグッゲンハイム・パートナーズが所有者だそうだ。