5月下旬に開催されるテクノロジー系の有名イベント「D10」カンファレンスに、『ソーシャル・ネットワーク』の脚本家、アーロン・ソーキンがゲストとして登場することになったという。
You Can Handle the Truth: Aaron Sorkin to Appear Onstage at D10
Dカンファレンスの主催はWall Street Journal(WSJ)系列のAll Things Digital(ATD)というブログで、今年はその10回目だから「D10」。一昨年にはジェームズ・キャメロン監督が呼ばれていたりした「D」カンファレンスなので、ソーキンの登壇自体にはそれほど「違和感」もしくは「驚き」はない。それでも、過去に故スティーブ・ジョブズとビル・ゲイツの「共演」を実現させていたようなバリバリのIT系イベントにハリウッドの人気脚本家が呼ばれる、ということに、米国ビジネス界の今が表れているようでちょっと面白い。
さて。アーロン・ソーキンといえば過去には『ア・フュー・グッドメン』、最近ではブラッド・ピット製作・主演の『マネー・ボール』などを手がけた人物だが、特筆すべきはやはり、アカデミー賞脚色賞を受賞した『ソーシャル・ネットワーク』(2010)であろう。この映画の商業的な成功で、ハリウッド関係者のシリコンバレーに対する態度が変わったという話が、少し前に掲載されたWSJの記事に出ていた。
Entrepreneurs Get Big Break—on Screen
その時々の「花形の世界」を舞台にした作品をつくるのは、ハリウッドのお得意とするやり方のひとつで、古くは80年代の『ウォール・ストリート』(マイケル・ダグラス主演/近年続編もつくられていた)などが代表例といえそうだ。けれども、シリコンバレーは長い間、距離を置かれていた。その理由は「オタクっぽい世界をどう面白いドラマに仕立てるか」「技術的なブレイクスルーといった、映画やテレビを観る一般の人にはわけのわからない話をどう見せたらいいか」といった点についての心配があった、というもの。
ところが世の中(観客側)の変化もあり、そして『ソーシャル・ネットワーク』が大ヒットしたことなどもあって、いまハリウッドではちょっとした「シリコンバレー・ブーム」が起こっている。スティーブ・ジョブズの生涯を描いた作品の企画が2本進行しており、そのうち1本は、アシュトン・カッチャー主演で5月に撮影が始まる。また、Facebookの創業者マーク・ザッカーバーグのお姉さんにあたるランディ・ザッカーバーグがエグゼクティブ・プロデューサーを務めることが決まったテレビのリアリティ・ショー(製作はケーブルテレビ網最大手コムキャスト傘下のブラボー・ネットワーク)や、『マネー・ボール』『しあわせの隠れ場所』などの原作を書いた人気ノンフィクション作家のマイケル・ルイスが、シリコンバレーを舞台にしたテレビ番組の脚本を手がける可能性も……といった話が載っている。
故スティーブ・ジョブズと近しかったベテラン・ジャーナリストが、最近になって「発掘」したという複数のインタビューのテープについて記事にしていた。
Exclusive: New Wisdom From Steve Jobs On Technology, Hollywood, And How "Good Management Is Like The Beatles" (Fast Company)
このなかには、ジョブスが1995年当時に口にしたというコメント——「ハリウッドとシリコンバレーは夜の海上ですれ違う二隻の船みたいなもの。何もかもがすっかり異なる」「両者には世間が考えるよりも共通点は少ない」等々が出てくる。いまの両業界の接近ぶりを見聞きすると思わず「隔世の感」という言葉が頭に浮かんでくる。
ちなみに、前述のマイケル・ルイスという物書きも時代の流れに敏感な人で、振り出しはウォール・ストリート——かつての名門投資銀行ソロモンブラザースの債権取引部門での「丁稚見習い」だった。その経験を活かして書いたデビュー作『ライアーズ・ポーカー』が大ヒット。その後、"ネットバブル"の2000年前後には2つほどシリコンバレーの起業家を主人公にしたノンフィクションも手がけた。そしてネットバブル崩壊でたぶん書くネタに事欠いていたはずの時(2002年)に目をつけたのが、『マネー・ボール』で描かれたMLBオークランド・アスレチックスの快進撃——それをもたらした、ビリー・ビーンというゼネラル・マネージャーとデータを駆使した新しいスタイルの球団経営――だった、と後知恵で言うとそういうことになる。